果樹王国福島、復活に手応え 除染徹底で価格戻る
全国有数の果樹産地である福島県内で、モモや日本ナシなどの果物が出荷ピークを迎えている。昨年は福島第1原発事故による放射線への不安から価格が大幅に下落したが、樹木の除染を徹底した今年は放射性物質がほぼ不検出に。安全性を強調できたことで価格はモモで事故前の8割、日本ナシで事故前の水準に戻った。ただ、風評被害が残る贈答品は回復が遅れている。
福島市西部の果樹園地帯を走る「フルーツライン」沿道では、収穫期を迎えたモモやナシが枝がしなるほど豊かに実り、果物の甘いにおいが周辺に漂っている。「気温が高い今年は糖度が高く甘みがぎゅっと凝縮されている」。たかはし果樹園の高橋賢一さん(42)も出来栄えに自信を持つ。
収穫期を終えつつあるモモに続き、今週末にはナシ「幸水」が出荷のピークに。いずれも放射性物質はほとんど検出されていない。高橋さんは果樹園の放射線量を5メートル四方ごとに計測するなど、独自の取り組みで安全性をPR。昨年は例年の6割に落ち込んだモモの売り上げは、今年は8割の水準まで戻ったという。
県全体でも販売は復調。県園芸課によると、原発事故前の8月は5キロ当たり約2200円が相場だった県産モモは、昨年990円に落ち込んだが、今年は1750円まで回復した。日本ナシも昨年は1キロ当たり186円で事故前(300円前後)から4割近く下落したが、今年は少雨で収穫量が減ったこともあり、292円と出足は好調だ。
理由について、JA新ふくしま(福島市)の佐藤利松常務理事は「除染によって線量が下がり、安全性を伝えられた」と説明する。果樹は根が地下約30センチと深く、国の基準値(1キロ当たり100ベクレル)以上の放射性物質が昨年検出された果物は、土ではなく果樹表面の付着が原因とされる。各果樹農家は昨年冬から今年春にかけて、高圧洗浄機で樹木の表面を洗い流したり、樹皮を剥ぎ取るなどの除染を徹底した。
「木を1本洗うのに1時間かかる除染が通常作業に加わって大変だった」(福島市の農業男性)。冬場の慣れない作業に転倒や骨折などの事故も起きたが、同JAが6月までに検査した5012個のモモのうち、放射性物質の検出はわずか37個(0.7%)。それもすべて国の基準値の半分以下になった。
ただ、懸念も残る。送り手が受け取る側の不安に配慮する贈答品は回復の遅れが目立ち、果物専門店のギフト用品からも福島産は姿を消した。価格面も「他の産地が出荷すると簡単に値崩れすることがあり、まだ力強さに欠ける」(県園芸課の安部充副課長)。
福島県は原発事故前、モモの出荷額が全国2位、日本ナシが同3位だった。