People's China
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北京の冬の風物詩 「東来順飯荘」の涮羊肉

 

中国政府認定の「中華老字号」

 昨年、中国政府は文化振興を推進するとの方針を改めて宣言した。国力が充実すれば自ら文化へ目が注がれる。中国には底知れぬ力がある。それは歴史に裏打ちされたものであり、一夜にして成ったものではない。

薬味を入れた火鍋に水を加え、沸騰すれば、いよいよしゃぶしゃぶの始まり

中国の商務部(日本の省に当たる)は2006年、「中華老字号」いわゆる「中国老舗」を選定し、430の企業に「中華老字号」の認定授与を行った。伝統文化を守り、振興させようとする国の意志が伝わってくる。同時に、中国の豊かさの器が一回りも二回りも大きくなったことを実感する。

さて、日本でいう「老舗」、中国でいう「老字号」は、いずれも創業何百年という店だが、何百年続くというのは並大抵のことではない。とくに戦乱に明け暮れていた解放前の中国は、平和に過ごすことさえかなわなかった。それでもなお商人たちは伝統を守り、営々と商い、庶民もまた老舗に通って愛用してきた。

しゃぶしゃぶには銅製の火鍋を使うが、見栄えの良い琺瑯の火鍋も使われる。でも、北京人はやっぱり銅の火鍋だ

第一回目の今回取り上げるのは、北京の冬の風物詩でもある「涮羊肉」と呼ばれる羊のしゃぶしゃぶの老舗「東来順飯荘」。北京人はもちろん、地方から出てきた中国人や観光客にとっても北京の冬の楽しみの一つである。

日本では羊といえばオーストラリアやニュージランドが有名だが、統計では飼育頭数は中国が断トツで世界一。当然、羊はウールといわれる羊毛や羊皮だけではなく、その肉を食用とする。東来順の涮羊肉は確かにうまい! そのうまさの秘訣をさぐってみると、なるほど訳がある。東来順はかつて王府井にあったが、最近はここかしこに看板が見られる。これも時代か、王府井の本店の他にもチェーン店が今や北京に四十数か所、全国に127店あるという。

東来順飯荘の涮羊肉はなぜうまい?

ここで東来順の歴史をのぞいてみよう。創始者は丁徳山という河北省出身のイスラム教徒である。イスラム教徒は豚肉を食さない。中国では回族の店は清真料理店といわれるが、東来順は最も繁盛している「清真」料理店でもある。1903年、彼は人で賑わう東安市場に、雑面(緑豆や栗の粉で作った麺)や、そば粉などで作った蒸し餅を売る露店を出した。商売は日に日に繁盛し少しずつ規模を大きくしておかゆなども加え、1941年には涮羊肉などを売るようになった。

薬味係があらかじめ火鍋に、ネギ・ショウガ・クコなどを入れる

今回はあえてチェーン店の一つ、朝陽区の大屯北路にある東来順に入った。これだけ増えた東来順にはそれなりの約束事があるはず。本店とチェーン店との間をつなぐものを探ってみるのも、東来順を知る糸口になりそうである。ここの社長は任樹根さん。現在「東来順飯荘」三店舗を持つ。もともとはホテルマンで仲間を誘って2001年に一号店を開いた。加盟料は一店舗年25万元。

肉と機械は東来順本店から提供される。最初の店は本店から人が派遣されノウハウを学ぶ。とくにタレ(調味料)は秘伝とされる。羊肉は内蒙古の黒頭小尾羊の9カ月から一歳半までの子羊のみを使う。しかも創業当初から肩肉などしゃぶしゃぶに手ごろな肉だけを使い、他は肉屋に売りさばいたという。今でも一頭の羊の30%しか使わない。

本店から提供される東来順特製の肉切り機 真っ赤に燃えた炭を火鍋の真ん中に入れる

火鍋は真ん中に煙突状の筒があり、煙突の中に真っ赤に燃えた炭を入れ、周りに湯を入れる。鍋は銅のものと七宝のものがあるが、これも銅のものが最良とされている。

涮羊肉は肉を食べる

ぐらぐらと煮え立つ火鍋に羊肉をそれこそしゃぶしゃぶとくぐらせ、タレをつけて食べる。ゴマをベースにしたものだが、湯にさっとくぐらせた羊肉の水気を三度ほど振って落とし、タレをちょっとつけて食べるのが通の食べ方だそうである。タレをつけ過ぎるとせっかくの肉の味が消えてしまう。

まずはたっぷりと肉を食べてから野菜を加える。先に野菜を入れてしまうと、そちらで腹がふくれてしまう。涮羊肉というからには、肉を食べに来たのであって野菜はもちろん後回しになる。野菜を入れるということは、そろそろおしまいという意味でもある。

厳選された肉も昔は手で薄く切った。その切り方で店の人気が左右されるため、創業者は当時の名人と友だちになり、やがて彼を招いて弟子を育成した。今は機械で切るが、その機械は東来順特製で本店から提供される。さて、火鍋は火がなくては話にならない。実はここにも他店にはない工夫がある。ここで使っているのは韓国の技術による木炭という。これまでの木炭と違って臭いがなく、火力も今までより2時間ほど長持ちし、5時間は大丈夫。触った感じでは備長炭に似た硬さであった。

東来順自慢の肉の数々。写真の真ん中左が東来順の羊肉、右上は一番高級の羊肉。下のは高級牛肉

しゃぶしゃぶの他にも独特の軽食類がある。とくにゴマ焼餅はしゃぶしゃぶに欠かせない。写真の左上がゴマ焼餅。下はタレと薬味

任社長は、「私の店は東来順飯荘集団の中でもかなり成績のいい方です。今飲食業界はいろんな問題があります。コストを追求するあまり、よからぬ噂のある店もあるようです。昔の東来順飯荘は冬の間だけの半年営業でした。今は一年中客で賑わっています。牛は飼料も食べますが羊は草しか食べません。健康にもよいし汚染されていません。私も間もなく四店目を出します」と自信に満ちた表情で語った。老舗の看板を掲げてはいるものの、独自に食器を調達したり部屋の内装にも工夫を凝らしたりしている。本店は現在、加盟店の募集をせず、独自に支店を増やす方針に切り替えた。

任社長は「日本や米国に何度か視察に行きました。今、中国の飲食業界は結構、日本のサービスや食器などの用具を取り入れていますよ。いずれ日本に東来順を出店したい」と言った。老舗の伝統文化を守りつつ、いかに客を引きつけるか生き残りをかけている意気込みが言葉の端々にうかがえた。

 

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