最新記事

大麻

医療用大麻不足のドイツ 来年解禁のカナダに依存

2017年9月29日(金)19時30分
モーゲンスタン陽子

医療用大麻を栽培するカナダの企業 Blair Gable-REUTERS

<今年3月から医療目的での大麻使用が合法となっているドイツ。多くはカナダで生産されているが、そのカナダでは嗜好用を含む大麻の解禁が予定されている>

ドイツでは今年1月の法改正により、3月から医療目的での大麻使用が合法となっている。がんや、深刻な痛みを伴う重大疾病患者が対象で、他の科学療法で効果が現れなかったことが前提条件だが、疾患の定義や、すべての治療法を試したという証明は必要なく、医師の判断により処方箋が出されることになる。ヨーロッパではほかにオランダなど複数の国々で大麻が一部合法化されている。

賛否はあろうが、もともと食品や日用品において自然派志向の強いドイツでは、医療用大麻と社会の親和性が高く、おおむね歓迎されたようだ。健康保険も適用される。しかしその結果、医療用大麻使用患者数が急増し、施行後数ヶ月の7月17日には早くも全国の薬局でほぼ在庫切れの状態になってしまったと専門誌が報じている。

ドイツで販売されている大麻の多くはカナダで生産されている品種だ。カナダからの供給が待たれるが、長引く輸出入の諸手続きのために供給再開は早くとも9月末と見込まれる。カナダだけでなく、オランダからの供給もストップしている状態だ。そんな中、ドイツに生産工場を構えるカナダ企業も出現している。

カナダでは来年合法化

カナダでは来年7月1日ごろまでに嗜好用を含む大麻の解禁が予定されている。トルドー首相は大麻推進派として知られ、解禁は公約にも含まれていた。カナダでは近年、未成年の大麻使用者が急増しており、合法化により生産・流通における規制を強化することで、違法売買に絡む諸問題から未成年を守る目論見だ。たとえば、18歳未満の所持や購入は禁止され、販売した者には14年以下の禁固刑が課される可能性が出てくる。

解禁を受けて医療大麻事業に参入する企業も増えている。現在、50以上の企業がカナダ保健省の認可を受けているが、そのうちの1社、オンタリオ州バーリントン市のMaricann社も、この9月末に自社施設を完成させ、11月にカナダ保健省の審査を受ける予定だ。同社はまたドイツ、バイエルン州のエーバースバッハにも自社施設を建設中だ。

アメリカで世論を変えたのは子供の命

カナダでの解禁の動きにはアメリカの影響もある。アメリカで医療用大麻解禁に向けて大きく世論を動かしたのは、2013年のCNNドキュメンタリー、「ウィード(マリファナ)」で紹介された、ドラベ症候群という難治性てんかんに苦しむシャーロットという幼児のエピソードだと言われている。

1歳で発症し、絶え間ない発作のため成長が遅れ、ありとあらゆる治療法を試したがどれも効果がなく(ときには治療薬のせいで命を落としかけたこともあった)、脳と体を休めるために強制的に昏睡状態にするしか選択肢がなくなったとき、両親が一縷の望みをかけたのが医療用大麻だった。抽出した油分を与えた結果、週300回も起きていた発作が週1回までおさまり、その後シャーロットは順調に成長を続けているという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米仏首脳、中東の緊張激化回避へ取り組み強化 ウクラ

ワールド

イスラエル軍、人質4人救出 奪還作戦で210人死亡

ビジネス

米インフレ統計とFOMCに注目=今週の米株式市場

ワールド

アングル:気候変動でHIV感染拡大リスク、売春余儀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    ガスマスクを股間にくくり付けた悪役...常軌を逸した…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 7

    ロシア軍が「警戒を弱める」タイミングを狙い撃ち...…

  • 8

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕…

  • 9

    英カミラ王妃が、フランス大統領夫人の「手を振りほ…

  • 10

    【独自】YOSHIKIが語る、世界に挑戦できる人材の本質…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中