重賞ウィナーレポート

2015年12月27日 有馬記念 G1

2015年12月27日 中山競馬場 曇 良 芝 2500m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ゴールドアクター

プロフィール

生年月日
2011年05月18日 04歳
性別/毛色
牡/青鹿毛
戦績
国内:13戦7勝
総収得賞金
743,244,000円
スクリーンヒーロー
母 (母父)
ヘイロンシン  by  キョウワアリシバ(USA)
馬主
居城 要
生産者
北勝ファーム (新冠)
調教師
中川 公成
騎手
吉田 隼人
  • レース後、万歳で喜ぶ皆さん
    レース後、万歳で喜ぶ皆さん
  • 母ヘイロンシンと田谷利夫場長
    母ヘイロンシンと田谷利夫場長
  • 細身のスラッとした体をしている
    細身のスラッとした体をしている
  • 順調に成長しているゴールドアクターの全妹(1歳)
    順調に成長しているゴールドアクターの全妹(1歳)
  • 傾斜のある放牧地がいくつも広がる
    傾斜のある放牧地がいくつも広がる

 2015年、中央競馬の最後を飾る大一番・有馬記念(G1)は、2014年の菊花賞(G1)3着以来、休養を挟んで再び頭角を現し始めたゴールドアクターが実績馬を一蹴。4連勝のゴールで大金星を掴んだ。

 本馬の生産は新冠町にある北勝ファーム。飼料業を営む居城要氏が所有する牧場で、本馬は居城氏のオーナーブリーディングホースとなる。牧場で馬を手がけているのは田谷利夫場長とスタッフの大川寛和さんの2人。現在、繁殖牝馬は11頭いて、これまでには2005年のロジータ記念を制したグローバルリーダーや、中央・地方で約1億円を稼いだゴールドバシリスクを生産している。

 めぐってきたチャンスを喜びながら田谷場長は現地に出向き、ゼッケン7番をつけた生産馬に目を凝らしていた。レースはキタサンブラックが快調に逃げ、引退レースのゴールドシップがエンジン全開で襲いかかると、これぞ有馬記念(G1)と言わんばかりの声援がこだました。見せ場を作っていた菊花賞馬2頭をよそに、田谷場長の視線の先には絶好位で直線に向くゴールドアクターがいた。臆せず躍動するその姿を見て、田谷場長は席に陣取った応援団の誰よりも早く大声を上げていた。

 「ちょうど枠順発表の中継を見ていて、4枠7番を引き当てた時から“やった!”と思っていたんです。理想的な枠だし、掲示板もあるかもしれないと楽しみにしていました。パドックで馬を見ていて、以前より成長を感じ、状態は良く映りました。前走と違って、今回はチャレンジャーの立場。前半から吉田隼人騎手が思い切って乗ってくれましたね。4コーナーを向いた時に、思わず声が出ていました」と、照れながらレースを振り返ってくれた。ガードマンに誘導されてスタンドを降り、栄えある口取りに入った。お似合いのハットをかぶって、吉田隼人騎手の横で綱を持った。「これまで辛いこともありましたけど、馬に助けられました。オーナーが元気でいるうちに、中央の重賞を勝てる馬を目指してきて、それが叶って良かった」

 表彰台に立って、田谷場長は安堵していた。自身は中山競馬場のある千葉県の出身で、10代の頃にも有馬記念を見た記憶があるという。本馬がアルゼンチン共和国杯(G2)出走時に、フジテレビ「みんなのKEIBA」で特集されたこともあって、少年時代の友人たちもファンになった。携帯電話はお祝いのメッセージが相次ぎ、68歳同士で胸を熱くした。

 北海道の牧場でも電話が鳴り響き、町長や牧場主がお祝いに駆けつけた。報道陣が揃うと、留守番をしていた大川さんを真ん中にして、牧場の看板を前に万歳で喜び合った。グランプリ制覇の大きさを物語るように、事務所は分刻みにお祝いの花で埋め尽くされた。

 本馬誕生の背景は、祖母ハッピーヒエンに遡る。居城氏の所有馬として走り、現役時代は未勝利に終わったが、北勝ファームで繁殖入り。牧場から近い場所にある協和牧場で繋養していたキョウワアリシバと交配し、誕生したのがヘイロンシンだった。ヘイロンシンは障害で2勝し、J・G3でも入着。引退後に里帰りし、希少なキョウワアリシバ産駒として繁殖生活を開始したが、体内部の特徴から受胎に苦労し、初子のあと2年続けて役目を果たせなかった。

 「不受胎の間も当然、費用はかかりますからね。オーナーブリーダーの牧場でなかったら、どうなっていたかなと思います。配合はオーナーが決めていて、細身の母馬とのバランスを考え、グラスワンダーのがっちりした体型を意識していました。アクターは青い毛並みがきれいで、柔らかい筋肉をしていました。当歳から馬は良くて、度胸がありましたね」と、振り返る。北勝ファームでは早くから昼夜放牧に取り組んでいて、本馬もこれまでのノウハウを生かし、当歳夏と1歳夏の昼夜は、起伏のある放牧地で長時間過ごした。1歳秋まで順調に育ち、後期育成のため日高町のファンタストクラブへ移動となった。

 2011年に本馬が生まれた後、ヘイロンシンは3年間、「産駒なし」の状況が続いてしまった。長いトンネルの末、昨年ようやく父スクリーンヒーローの牝馬を出産した。「アクターの全妹になりますね。気性の強い馬で、元気一杯に過ごしています。こちらも高い素質を感じていますよ」と、田谷場長。放牧地で対面すると、なるほど元気が良い。やんちゃな若駒たちと、世話をする牧場のベテラン2人が対照的だ。馬づくりにおいて田谷場長は、かつてシンボリ牧場で勤務していた頃に聞いた、故・和田共弘代表の言葉を常々思い出すという。

 「よく『ライオンでも調教するんだから』っておっしゃっていたんですよ。だから、うるさい馬がいて苦労しても、自分の技術が足りないんだと考えていましたね。長くやっていても馬は難しいですが、はじめから諦めてやらないよりは、とにかくやってみようと、自分なりに試行錯誤して仕事をしてきました」

 40年以上のキャリアを積み、数多くの馬たちと向き合ってきた。その流れの中で、自身の携わった生産馬が、シンボリ牧場の名馬シンボリルドルフやシンボリクリスエスと同じく、有馬記念(G1)の歴代勝ち馬として名を刻む日が待っていた。

 現役のグランプリホースとして、本馬はこれから追われる立場になるだろう。11番人気で迎えたデビュー戦から数えて13戦。劇的に頂点を極めた先に、どんなドラマを見せてくれるだろうか。田谷場長は静かに心のうちを語った。「小さい牧場ですが、これだけのレースを勝てて、皆さんに祝福いただいて本当に嬉しいです。ファンの皆さんも応援ありがとうございます。一生懸命やり続けていれば、いつかどこかで、天が見てくれているかなと思います。アクターは天皇賞(春)(G1)が目標となりそうですが、今後も無事に走ってきて欲しいです」。