海氷分類の用語集

(気象庁「海洋観測指針」(1999)より)


氷の種類に関する用語

浮氷
(floating ice)
水に浮いているあらゆる形態の氷。海氷,陸氷,湖氷,河氷などがある。
海氷
(sea ice)
海氷が凍結してできた海で見られる全ての氷。
陸氷
(ice of land origin)
陸上又は棚氷で形成され,水に浮いている氷。浅瀬や陸に乗り上げたり,接岸している氷も含む。
湖氷
(lake ice)
観測された所に関係なく湖でできた氷。
河氷
(river ice)
観測された所に関係なく河川でできた氷。

海氷の種類に関する用語

<発達過程>
新成氷
(new ice)
新しくできた氷に対する総称で,晶氷,グリーン・アイス,雪泥,スポンジ氷などが含まれる。この種の氷は,凍結しているものの、ごくわずかの氷の結晶からできており,浮いている場合のみ一定の形になっている。
晶氷
(frazil ice)
水中を浮遊する微細な針状あるいは板状の氷。
グリース・アイス
(grease ice)
晶氷より後の凍結段階で,氷の結晶が互いに集まって水面にスープ状の層を作っている。また,余り反射しないので海面は鈍く見える。
雪泥
(slush)
陸上又は氷の上で水を十分含んだ雪,又は多量の降雪の後の水中のねばねばした浮遊する雪の塊。
スポンジ氷
(shuga)
直径数cmの海綿状の白い氷の集合体。グリース・アイス,雪泥,時にはいかり氷(後述)が海面に浮上してできる。
ニラス
(nilas)
薄い弾力のある表面が固い氷。表面は光沢がなく灰色に見える。 厚さは10cm未満で,波やうねりでたやすく曲げられ,横方向から強く押されると指を組み合わせたような形に重なり合う。厚さによって明るさが異なり,
暗いニラス(dark nilas:厚さ5cm未満)
明るいニラス(light nilas:厚さ5cm以上)
とに分けられる。
氷殻
(ice rind)
穏やかな海面で直接結氷するか,又はグリース・アイスから形成される。表面は固く光沢をもって明るく見える。厚さはおよそ5cm,風やうねりによってたやすく割れ,よく矩形の氷片になる。通常,塩分濃度の低い海水からできる。
板状軟氷
(young ice)
ニラスから一年氷への移行の段階で,厚さは10〜30cmの氷,薄い板状軟氷と厚い板状軟氷とに分けられる。
薄い板状軟氷
(grey ice)
厚さ10cm〜15cmの板状軟氷で灰色を呈し,ニラスより弾力がなく,うねりによって破壊される。横からの圧力によって積み重なることが多い。
厚い板状軟氷
(grey-white ice)
厚さ15〜30cmの板状軟氷で灰白色を呈し,横からの圧力によって積み重なるよりも隆起して氷丘脈を作ることが多い。
一年氷
(first-year ice)
板状軟氷から発達し,一冬より長くは経過しない海氷で,厚さ30cm〜2m。厚さによって    
薄い一年氷(thin first-year ice:30〜70cm)
並の一年氷(medium first-year ice:70〜120cm)
厚い一年氷(thick first-year ice:120cm以上)
に分類される。
古い氷
(old ice)
少なくとも一夏は融けずに残っている氷。厚さは3cm以上以上のものが多い。表面は一年氷より滑らかになっている。一夏だけ経た二年氷(second-year ice)と二夏以上経過した多年氷(multi-year ice)とに分けられる。

<定着氷の形態>
定着氷
(fast ice)
海岸や氷河壁,浮氷壁に接して定着している海氷。座礁している氷山の間を埋めて動かない海氷を含む。水位の変化で垂直な上下動が見られる。定着氷はその場の海水が凍結するか,流氷が海岸に固着して形成される。幅は海岸から数m〜数100kmに達する。定着氷は一年以上存在するものは年令によって分類される(古い,二年,多年)。海面上の高さが2m以上になれば棚氷と言う。
初期沿岸氷
(young coastal ice)
ニラスや板状軟氷からなる定着氷の初期の段階で,その幅は海岸線より数mから100〜200mに及ぶ。
氷脚
(ice foot)
沿岸に沿って固着した狭く長い氷で,潮汐によって動かされることもなく,定着氷が動き去った後も残っている部分。
いかり氷
(anchor ice)
海底に接触又は固着している水中の氷。
座礁氷
(grounded ice)
浅瀬に乗り上げた浮氷(座氷と比較)。
座氷
(stranded ice)
満潮の潮が引いた後も,海岸に浮かんでいたり居座ったりしている氷。
座礁氷丘
(grounded hummock)
座礁氷が氷丘状になったもの。単独のものと線状(又はくさり状)に連なったものとがある。

<流氷の形態>
流氷
(drift ice/pack ice)
定着氷以外の全ての海氷域を含める広義の用語で,その形態や配置に関係しない。なお,英語では密接度が7/10以上の場合には,drift iceの代わりにpack iceを用いてもよい。
はす葉氷
(pancake ice)
互いにぶつかり合って縁がまくれ上がったほぼ円形の氷塊。直径30cm〜3m,厚さは約10cmになる。グリース・アイス,雪泥,スポンジ氷などから弱いうねりで作られたり,氷殻やニラスが壊れたり,波やうねりの激しい時は薄い板状軟氷が壊れたりしてできる。また,しばしばある深さで,物理的性質の異なった水塊間の境界面でできて表面に浮いてくることがあり,急速に広い海面を覆う。
氷盤
(floe)
直径が20cm以上の比較的平らな海氷塊,氷盤は広さによって以下のように分けられる。
  巨大氷盤(giant floe)    直径10km以上。
  巨氷盤(vast floe)      直径2〜10km。
  大氷盤(big floe)       直径500〜2,000m。
  中氷盤(medium floe)    直径100〜500m。
  小氷盤(small floe)      直径20〜100m。
板氷
(ice cake)
直径が20m未満の比較的平坦な海氷。直径が2m未満の板氷を小板氷(small ice cake)と呼ぶ。
氷盤岩
(floeberg)
一つの氷丘又は幾つかの氷丘が凍りついてできた大きな海氷塊で,周囲の海氷と離れている。高さは海面上5mに及ぶものもある。
モザイク氷
(ice breccia)
いろいろな発達過程の氷が一緒に凍結している氷塊。
砕け氷
(brash ice)
直径2m以下の氷片で,さまざまな形に砕けた浮氷の集まっているもの。

<表面の特徴>
平坦氷
(level ice)
変形を受けていない平坦な海氷。
変形氷
(deformed ice)
互いに押し合い,所によっては押し上げ又は押し下げられたりして変形を受けた氷の総称で,いかだ氷,氷脈水,氷丘水氷に分けられる。
いかだ氷
(rafted ice)
氷塊が互いに重なり合っている変形氷の一種。
氷丘脈
(ridge)
圧力を受けて作られ,壊れた氷の山脈状あるいは壁状の部分。新しいものと風化したものとがある。圧迫によって押し下げられた氷脈の下の水中の部分はりゅう骨氷(ice keel)と言う。
氷脈氷
(ridged ice)
氷片が不規則に積み重なり合って山脈状や壁状になった氷。通常一年氷に見られる。
氷丘
(hummock)
圧力によって押し上げられ壊された氷の丘。新しいものと風化したものとがある。圧力によって下方に押しつけられ,氷丘の下で壊された氷塊の水中の部分を,さかさ氷丘(bummock)と言う。
氷丘氷
(hummocked ice)
氷片が互いに不規則に積み重なった起伏のある海氷。風化されるとなだらかな丘陵状になる。
直立氷盤
(standing floe)
垂直あるいは傾斜して立っている単独の氷盤で,比較的平らな氷で囲まれている。
氷衝角
(ram)
氷河壁,浮氷壁,氷山や氷壁から水面下に張り出した氷の部分。通常それらの氷の水面上の部分の激しい融解や浸食によってできる。
はだか氷
(bare ice)
積雪のない氷。
冠雪氷
(snow-coverd ice)
積雪に覆われた氷。

<融解過程>
パドル
(puddle)
氷上に融けた水が溜まったもので,主として積雪が融けたものであるが,さらに進んだ段階では氷自身の融解にもよる。初期段階では積雪の斑点ができる。
底なしパドル
(thaw holes)
パドルが融けて下の海水まで突き抜けた海氷中の垂直な穴。
かわき氷
(dried ice)
クラックや底無しパドルができて,たまっていた融けた水が表面から流れ去った後の氷。乾燥している間は表面は白みがかっている。
はちの巣氷
(rotten ice)
融解や崩壊が進んではちの巣状になった海氷。
浸水氷
(flooded ice)
融水や河の水が浸み込み,水や湿った雪で重くなった海氷。

海氷の分布状況などに関する用語

<氷量・密接度>
氷量
(ice cover)
全球・半球あるいは特定の湾と言った,かなり広い海域で,その全海面に対して密集した海氷の占める比率を言う。
密接度
(concentration)
ある氷域に対し,その中の氷に覆われている海表面の占める割合(氷域中の平均の密集程度を示す)を10分位法で表したものを言う。氷域内の全ての氷を対象とした場合は全体密接度(total concentration) 特別な氷を対象とした場合を部分密接度(partial concentration)と言う。
全密接氷域
(compact ice)
密接度10/10で,海水面が全く見られない氷域。
凍結密氷域
(consolidated ice)
密接度10/10で,氷盤が互いに凍りついている氷域。
最密氷域
(very close ice)
密接度9/10〜<10/10の氷域。
密氷域
(close ice)
密接度7/10〜8/10の氷盤の集まりからなる氷域。氷は大体接触している。
疎氷域
(open ice)
密接度4/10〜6/10で,多くの水路や氷湖がある氷域。氷は通常接触していない。
分離氷域
(very open ice)
密接度1/10〜3/10の氷域。氷より水面の方がはるかに多い。
開放水面
(open water)
航行可能な広い海域。密接度1/10未満であれば海氷または陸氷があってもよい。
氷山海面
(bergy water)
海氷はなく陸氷のみが存在する航行自由な海域。
無氷海面
(ice-free)
海氷も陸氷も全くない海面。どのような種類でも氷があればこの用語は使用しない。

<海氷の分布状況>
流氷野
(ice field)
いろいろの大きさの氷盤群からなる流氷域で直径10kmより大きいもの。大きさによって以下のように分ける。
大流氷野(large ice field):直径20kmを超える。
中流氷野(medium ice field):直径15〜20km。
小流氷野(small ice field):直径10〜15km。
流氷原
(ice patch)
直径が10km未満の流氷域。
流氷帯
(belt)
幅1kmから100km以上に及ぶ長く大きな流氷の帯。
氷舌
(tongue)
風や海流によって氷の縁が舌状に長さ数kmに張り出したもの。
小氷帯
(strip)
幅が約1kmかそれ以下で通常流氷の本体から分離した小氷片からなる細長い流氷帯。      風,うねりあるいは海流の作用で寄り集まって漂流する。
入江
(bight)
氷の縁の中で広く三日月状に入り込んだ部分。風や海流によってできる。
アイス・ジャム
(ice jam)
狭い海峡に砕けた河氷や海氷が詰まった状態。
氷縁
(ice edge)
海氷域と開放水面との境界。氷縁位置は時間と共に変化する。     通常流氷域の風上側は密接した氷盤が明瞭な氷縁を形成するが、風下側は分離した氷盤が散漫な氷縁を形成する。
氷域境界
(ice boundary)
定着氷と流氷との間,又は異なる密接度の流氷域の間の任意の時刻における境界。


氷域中の海水面

割れ目
(fracture)
変形作用の結果,最密氷域,全密接氷域,凍結密氷域,定着氷,又は単独の氷盤に起こる切れ目や裂け目。割れ目には砕け氷があったり,ニラスや板状軟氷が張り詰めていることもある。長さは数mから数kmに及ぶものもある。幅によって以下のように分類する。
微小割れ目(very small fracture) :幅1〜50m。
小割れ目(small fracture) :幅50〜200m。
中割れ目(medium fracture) :幅200〜500m。
大割れ目(large fracture) :幅500mを超える。
クラック
(crack)
氷を互いに分離させるに至らない亀裂。幅数cmから1m
タイド・クラック
(tide crack)
動かない氷脚あるいは氷河壁と定着氷との接合部にあるクラックで、定着氷は潮汐によって上下する。
分離帯
(flaw)
流氷と定着氷との間の狭い亀裂で,その中は氷片が混乱した状態になっている。強い風や海流によって定着氷境界に沿って流氷が切り取られてできる。
割れ目域
(fracture zone)
多数の割れ目のある所。
水路
(lead)
海氷域の中で,海上の航行が可能な割れ目や,狭い通路。片側が海岸や定着氷に接している時には沿岸水路(shore lead),分離帯水路(flaw lead)と言う。
氷湖(ポリニヤ)
(polynya)
氷で囲まれた直線的な形でない海水面。氷湖には砕け氷があったり,新成氷,ニラス,板状軟氷で覆われていてもよい。一方の側が海岸や定着氷に接している時には沿岸氷湖(shore polynya),分離帯氷湖(flaw polynya)と言う。もし毎年同じ場所に現れるならば再現氷湖(recurring polynya)と言う。


海氷に関係する大気中の現象

水空
(water sky)
低い雲の下面の暗い縞で,海氷域付近に海水面があることを示している。
氷映
(ice blink)
遠方にある氷の集団の上の低い雲が白っぽく輝いて見える現象。
氷煙
(frost smoke)
氷域中の海水面や氷の縁の風下に現れる霧で,氷上を移動してきた寒気が、それより暖かい水面に接して生じたもので,氷が張るまで持続する。
幻氷
(mirage of ice)
水温が異常に低い時などに起こる。水平線付近の氷が浮かび上がって見える一種のしん気楼現象である。


海上航行に関係のある用語

ビセット            (beset) 船が氷に取り囲まれ動けない状態。
氷塞
(ice bound)
湾や入江などで,氷のために船の航行が砕氷船の援助がなければ妨げられる時に言う。ただし,砕氷船の援助が可能な時には使用しない。
ニップ
(nip)
氷が船を強く押し付けた状態。氷に挟まれている船が損傷を受けていなくてもニップを受けていると言う。
圧迫氷
(ice under pressure)
変形作用が活発に行われている氷で,そのため航行の障害や危険が起こる恐れがある。
難航氷域
(difficult area) 
航行が困難なほど厳しい状態になっている氷域。
可航氷域
(easy area)
航行が容易な状態になっている氷域。
アイス・ポート
(ice port)
浮氷壁の湾入している所で,多くの場合一時的なもの。そこでは船が横付けして直接棚氷の上に荷揚げできる。


陸氷に関する用語

氷床
(ice sheet)
広大な陸地が暑い雪氷に覆われたもの。海面上に張り出して浮かんでいる棚氷を含めることもある。現在の地球上では南極大陸とグリーンランドにみられる。
氷河氷
(glacier ice)
氷河の中の氷,又は氷河が起源の氷。陸上にあるか海に浮いているかは問わない。
棚氷
(ice shelf)
海面上2〜50m又はそれ以上のかなりの厚さで,海岸に固着して浮いている氷床。普通,水平方向に大きく広がり,表面が平坦か緩やかな起伏をしている。年間を通しての積雪と,時には陸の氷河が海へ延びることによって生成する。氷の一部は底着していることもある。海側の縁は浮氷壁(ice flont)と呼ばれる。
氷山
(iceberg)  
氷河又は棚氷から割れて海に流れ出たもので,海面上の高さが5m以上の氷塊。浮いていても座礁していてもよい。氷山はその形状から卓状型,ドーム型,傾斜型,せん塔型,風化型又は氷河氷山などに分けられる。
氷河氷山
(glacier berg)
氷河から割れてできた氷山で、不規則な形をしている。
卓状氷山
(tabular berg)
頂上が平らな氷山。多くは棚氷から割れてでき水平なしまが見られる(氷島と比較)。
氷山舌
(iceberg tongue)
海岸から張り出している氷山群の大集合域で,座礁したり定着氷で連結されていたりする。
氷島
(ice island)
北極海の棚氷が割れた海面上約5mの大きな浮氷で,厚さ30〜50m,面積は数km2〜500km2又はそれ以上,通常表面は規則的起伏があり、航空機からはろっ骨状に見える。
氷山片
(bergy bit)
浮いている氷河氷の大氷片で,海面上の高さは1m〜5mで、面積は約100〜300m2の広さである。
氷岩
(growler)
氷山片や氷盤岩より小さな氷塊で,しばしば透明であるか,縁がかったり,ほとんど黒っぽく見えたりする。海面上の高さは1m未満で,広さは約20m2である。


海氷に関するその他の用語

ブライン
(brine)
海氷の成長時に海氷中に閉じ込められた高濃度の塩水。ブラインは温度と塩分濃度との平衡関係を保つので,海氷の温度が変化すると氷の析出や融解が起こる。ブラインは次第に海氷から抜け落ちるために,古くなるほど海氷が含む塩分は少なくなる。
アイス・アルジー
(ice algae)
海氷の中に棲む植物プランクトンの一種の小さな藻類(アルジー)。海氷のとける春に爆発的に増殖して,海洋生物の餌の基礎となる。

to Home

(社) 日本雪氷学会北海道支部