葉酸代謝拮抗薬
【原文】antifolate
葉酸の活性を阻害する物質。葉酸代謝拮抗薬はがんの治療に用いられる。「folate antagonist(葉酸拮抗薬)」とも呼ばれる。
葉酸代謝拮抗薬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 15:35 UTC 版)
葉酸は1炭素単位の移動(C1代謝という人もいる)を含む多くの酵素反応に関与するビタミンである。これらの反応はDNAとRNAの前駆体、グリシン、メチオニン、グルタミン酸といったアミノ酸、ホルミルメチオニンtRNAや他の重要な代謝産物の生合成に重要な反応である。植物は自ら生合成するが人は生合成することができず経口摂取する。しかし、DHF、THF、MTHFの変換といった代謝は行われているので、その部位をターゲットとした場合、葉酸代謝阻害薬でヒト細胞も傷害できる。 ジヒドロプテロイン酸シンターゼ阻害薬 これは葉酸の生合成経路の阻害であるので、細菌に対して選択毒性を持つ。抗腫瘍薬では用いることはない。ST合剤に含まれるサルファ剤がこれにあたる。スルホンアミド系薬物とスルホン系薬物というものに分類されることが多い。スルホンアミド系薬物としてはスルファジアジンとスルファメトキサゾールが挙げられる。スルファメトキゾールはバクタやバクトラミンといったST合剤にも含まれている。スルホンアミド系薬物は血清アルブミンとの結合部位をめぐりビリルビンと競合するので、新生児黄疸の原因となる。スルホン系薬物にはジアフェニルスルホンなどがあり、ハンセン病の治療に適応があるが、約5%の患者で投与後にメトヘモグロビン血症を起こすので使いにくく、あまり馴染みがない。 ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬(DHFR阻害薬) これは抗菌薬としても抗腫瘍薬としても免疫抑制薬としても用いられることがある薬である。メソトレキセート (MTX)、トリメトプリム、ピリメタミンという3つの薬が重要である。トリメトプリムはバクタやバクトラミンといったST合剤に含まれている抗菌薬である。尿中にそのままの形で排出されることから尿路感染症の治療で使いやすい。ピリメタシンは抗寄生虫薬として使われることが多く、何といってもトキソプラズマ症に効果的な唯一の治療薬である。スルファジアジンとの併用でシナジーを得るので非常に良い治療ができるのだが、日本ではスルファジアジンが適応外である。ピリメタシン自体でもマラリアに対して有効であるが、近年、耐性が問題となっている。さて、ここで気がつくのだが、トリメトプリム、ピリメタシンは抗腫瘍薬としては全く用いられない。DHFR阻害薬はテトラヒドロ葉酸の細胞内供給を決定的に不足させ、結果的にプリンとチミジンの新たな合成停止させることによってDNA合成とRNA合成を阻害する。DNA合成が停止するため細胞はS期で停止させられる。この理屈ではバクタ投与ではもっと激しい副作用が出てもよさそうである。しかしそれが出ない。サンフォードガイドでは尿路感染症 (UTI) の第一選択はST合剤となっているほど安全な薬物である。実は細菌、原虫、ヒトではDHFRのアイソフォームが異なるため選択毒性が働いているのである。メソトレキセートはアイソフォームに関係なく阻害する。がん細胞の方が分裂回数が多いから選択毒性になるとかつては考えられたが、S期に止まるだけなら大した効果は上がらないはずである。現在ではメソトレキセート投与は腫瘍細胞をアポトーシスに導き、正常細胞をアポトーシスに導かないということが選択毒性となっていると考えられている。すなわち、p53やBcl-2のようなアポトーシス制御蛋白に変異があるとメソトレキセート耐性となってしまうのである。もちろん、分裂回数はある程度の関係はしていて消化管粘膜や骨髄抑制は出現する。HD-MTX療法はフォリン酸(=ホリナート)救援療法によって普及した。機序は不明な点が多いが、メソトレキセート投与後数時間後にフォリン酸(ロイコボリン)を投与することで正常細胞を救援することができる。HD-MTXの投与量はフォリン酸救援療法(ロイコボリンレスキュー療法)を行わければ致死的であるので注意が必要である。メソトレキセート、シタラビンと同様血液脳関門 (BBB) を透過性のある数少ない薬物の一つである。中枢神経DLBCLにおいては非常に頼りになる。血液疾患の他には乳癌、肺癌、頭頸部癌、絨毛癌にも適応がある。葉酸は胎児細胞の適切な分化と神経管の閉鎖のために重要であるため、DHFR阻害剤の胎児への投与は禁忌である。近年はメソトレキセート単剤、もしくはプロスタグランジン類似物質のミソプロストールとの併用で妊娠中絶薬として臨床試験が行われている。
※この「葉酸代謝拮抗薬」の解説は、「抗がん剤」の解説の一部です。
「葉酸代謝拮抗薬」を含む「抗がん剤」の記事については、「抗がん剤」の概要を参照ください。
葉酸代謝拮抗薬と同じ種類の言葉
- 葉酸代謝拮抗薬のページへのリンク