耳
『ガルガンチュア物語』第一之書(ラブレー)第6章 母ガルガメルが出産時に脱肛を起こしたので、産婆が強力な収斂剤を施す。そのため括約筋が締まり、子宮が上に口を開け、そこから胎児ガルガンチュアは飛び出して上昇静脈幹に入りこみ、やがて母の左耳から外へ出た。
★2.耳からさまざまなものが出る。
『北野天神縁起』 善相公清行が、重病の本院大臣時平の見舞いに赴く。時平の左右の耳から青龍が頭をさし出し、「我は怨敵に復讐しようとしているのに、汝の息子浄蔵が病降伏の祈りをしている。それを制止せよ」と告げる。清行は浄蔵にこの由を知らせ、浄蔵は祈りをやめる。時平はたちまち死ぬ。
『太平広記』巻327所引『述異記』 馬道猷の前に霊鬼たちが現れ、その中の2人が道猷の耳に入って、彼の魂を耳から外へ押し出した。履物の上に落ちた魂は、道猷の目にはひきがえるのような形に見えた。霊鬼が耳の中にとどまっているため、道猷の耳は腫れあがり、彼は翌日死んだ。
*耳から魂が出て行くのを感じる→〔人魂〕1aの『和漢三才図会』巻第58・火類「霊魂火(ひとだま)」。
『日本書紀』巻11〔第16代〕仁徳天皇67年(A.D.379)10月 鹿が突然野中より走り出、役民らの中に入って倒れ死んだ。不思議に思い鹿の傷を探していると、百舌鳥が耳から出て飛び去った。耳の中を見たところ、ことごとく喰い裂かれていた。その場所を百舌鳥耳原というのは、この事件によってである。
『聊斎志異』巻1-2「耳中人」 譚晋玄は導引の修行に励むうち、耳の中から「会ってもいいぞ」との声が聞こえるようになる。ある日、彼がその声に応ずると、3寸ほどの小人が耳から出てくる。その時、隣家の男が声をかけたため、小人はうろたえて姿を消した。晋玄も狂気となり、半年ほどしてようやく癒えた。
『玄怪録』2「耳の中の国」 8月15日の夜、薛君冑の耳から、背丈2~3寸の童子が2人出てきた。童子たちは「兜玄国から来ました。兜玄国は我々の耳の中にあります」と言う。薛君冑が1人の童子の耳の穴をのぞくと、中に別天地がある。彼は童子の耳の穴に飛び込んで、兜玄国へ行く。薛君冑は兜玄国で役人となって数ヵ月を過ごした後に、故郷が恋しくなり、再び童子の耳を通ってもとの家に戻る。その間にこの世では7~8年がたっていた。
『Xの悲劇』(クイーン)第1幕第1場「ハムレット荘」 ドルリイ・レーンはシェイクスピア劇の名優だったが、聴力を失って引退した。非凡な推理力を持つ彼は、警察に協力して、いくつかの難事件を解決する。耳が聞こえないことは、精神の集中にはかえって好都合だった。目を閉じるだけで音のない世界に入れ、外部の騒音に煩わされずにすむからである。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)9 近所の寺に、80歳ばかりの和尚がいる。夕立の時、寺内へ雷が落ちて、和尚のいる庭先の松の木を割いてしまった。ところが和尚は泰然として平気であった。それもそのはず、和尚は耳が聞こえないのだった〔*迷亭が語る話。*禅定に入っていたために、激しい雷鳴が聞こえなかった、という物語もある→〔落雷〕5の『大智度論』巻21〕。
『名もなく貧しく美しく』(松山善三) 秋子と道夫は、聾唖者どうしで結婚した。2人の間に生まれた赤ん坊は、冬の夜、蒲団から這い出て土間に落ちる。就寝中の秋子と道夫は聾者ゆえ、赤ん坊が泣いても目覚めず、赤ん坊は死んでしまう。夫婦は嘆き悲しむが、まもなく2人目の子供が授かり、無事に成長する。ある日のこと。かつて秋子が世話をした戦災孤児が、立派な青年となって訪ねて来た。秋子は喜んで大通りに飛び出し、トラックにはねられて死ぬ。秋子には、クラクションの音が聞こえなかったのだ。
『叫べ、沈黙よ』(ブラウン) 「聞く者が誰もいない森の奥で木が倒れたら、それは無音だろうか?」という議論がある。空気の振動はある。しかし音は存在するのだろうか? 人妻マンディーとその愛人とが、コンクリートの部屋に閉じ込められ、助けを求めて何日もドアを叩き、叫び続けた末に餓死した。マンディーの夫は、最近、耳の病気で聾者になったので、何も聞こえず気づかなかったというのだ。彼は本当に聾者なのだろうか?
耳と同じ種類の言葉
「耳」に関係したコラム
-
FX(外国為替証拠金取引)では、円高、円安という言葉をよく耳にします。例えば、USD/JPYが1ドル81.50円から81.30円へ値動きした場合には、円の価値が高くなったので、「20銭の円高」といいま...
- >> 「耳」を含む用語の索引
- 耳のページへのリンク