空間
『バーガヴァタ・プラーナ』 ヤショーダーに抱かれた幼いクリシュナ神が、あくびをする。その口の中に、空・星・太陽・月・海・山など全宇宙が見えたので、ヤショーダーは仰天した。
『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」 聖仙マールカンデーヤが、クリシュナの化身である少年の口中に吸いこまれる。腹の中に入ると、そこに都市・王国・山々・神々・人・動物など、全世界が現出する。マールカンデーヤは数百年間過ごした後に、口から吐き出される。
『影をなくした男』(シャミッソー) 青年シュレミールは園遊会で、長身痩躯の年配の男に出会う。男は灰色がかった燕尾服のポケットから、人々の望みに応じて、望遠鏡・トルコ絨毯・テント・馬3頭などを、次々に出す。男は悪魔であり、シュレミールに「あなたの影をゆずってほしい」と申し出る→〔交換〕2。
『アレフ』(ボルヘス) 「わたし(ボルヘス)」は友人カルロスの家の地下室の暗闇で、アレフを見せられた。それは直径2~3センチの玉虫色に光り輝く球体で、宇宙空間がそっくり原寸大のまま、そこにあった。「わたし」は、地球のあらゆる場所と人々を、あらゆる角度から見た。広大な砂漠と、砂粒の1つ1つが、同時に見えた。昼と夜、黎明と黄昏が、混じり合うことなく共存していた。それは思量を絶する世界だった。
*壺の中に大宇宙が入ってしまう→〔宇宙〕4の『壺』(星新一)。
*壺の中の大空間→〔壺〕2の『後漢書』列伝第72「方術伝」・『仙境異聞』(平田篤胤)上ー1。
*小さな部屋の中の大空間→〔部屋〕5の『今昔物語集』巻3-1。
『維摩経』第6章 維摩居士は説いた。「菩薩が『不可思議解脱』という悟りを得ると、広大な須弥山(しゅみせん)をそのまま、小さな芥子粒の中に入れることができる。須弥山の大きさは変わらず、諸天の神々は、自分たちがどこに入れられたのか気づかない。4つの大海の水を、1つの毛穴に入れることもできる。魚類も、龍・鬼神・阿修羅も、自分たちがどこに入れられたのか気づかない」。
『三四郎』(夏目漱石) 三四郎は、郷里の熊本から初めて東京へ行く汽車の中で、広田先生と出会った(*→〔皮膚〕2)。広田先生は「日本には、富士山よりほかに自慢するものは何もない」と言う。三四郎が「しかしこれからは、日本もだんだん発展するでしょう」と弁護すると、広田先生は「亡びるね」と断じた。そして、「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より頭の中の方が広いでしょう。囚われちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって、ひいきの引き倒しになるばかりだ」と説いた。
『タイム・マシン』(H・G・ウェルズ) 「ぼく」の友人の時間飛行家は、「時間は空間の一種にすぎない。時間は空間の第4次元なのだから、われわれは空間を移動するのと同様に、時間も移動できるはずだ」と語る。彼はタイム・マシンを作り上げ、未来世界へ旅立って行った→〔時間旅行〕1a。
『精神科学から見た死後の生』(シュタイナー)「死者との交流」(2) 超感覚世界では、本当に時間が空間になって、あたかも空間中のさまざまな地点のように、あちらこちらに時間が存在している。時間は過ぎ去らず、ただ空間的に遠いか近いかという状態なのだ。この講演会場と、皆さんのお宅とは離れている。同様に、超感覚世界では、現在と過去が離れている。皆さんのお宅は、ちゃんと存在している。そのように、超感覚世界では、過去は消え去らずに存在している。
*空間的に遠い所に見えることがらを、実現までに長い時間がかかる、と解釈する→〔水鏡〕3aの『古今著聞集』巻7「術道」第9・通巻297話。
『時間に挟まれた男』(シェクリイ) ジャックが下宿の部屋を出て階段を降りると、そこは先史時代で、棍棒を持つ原始人がいた。彼はあわてて部屋に戻り、タンスの上へ登ってみると、そこは未来社会で、汚染された大気の中に大都市があった。ジャックはもう1度先史時代へ降り、原始人の棍棒を持ち帰って、下宿の家主に状況を説明する。その頃、宇宙の管理局が、時間の割れ目を修復すべく工事を行なっていた。修復が完了した瞬間、家主は棍棒を持ったまま消えた。ジャックは無事だった。
★4c.時空間を見る。
『スローターハウス5』(ヴォネガット) ビリーはトラルファマドール星に誘拐された(*→〔誘拐〕6)。彼は言う。トラルファマドール星人は、個々の星の過去から未来までの位置を、すべて見わたすことができる。それゆえ彼らの眼からは、宇宙空間は、光るスパゲッティに満たされているように見える。人間は、一端に赤ん坊の足があり、他端に老人の足がある、長大なヤスデのように見える。
★5.劇が演ぜられる舞台上では、空間と時間は自在に転換する。
『パルジファル』(ワーグナー)第1幕 聖杯城近くの森の中。旅の若者パルジファルが森に迷い込んで、聖杯守護騎士団の長老グルネマンツと出会う。グルネマンツがパルジファルに語りかけるうちに、舞台背後では、森から聖杯城へと少しずつ場面が転換する。パルジファルが「あまり歩いていないのに、もう遠くへ来たような気がする」と言うと、グルネマンツは「ここでは時間が空間に変わるのだ」と教える。
★6.空間の起源。
『レ・コスミコミケ』(カルヴィーノ)「ただ一点に」 宇宙にまだ空間がなかった頃、全存在は一点に凝集していた。「わし(Qfwfq)」もそこにいた。ある時、Ph(i)Nko夫人が「ほんのちょっとの空間があれば、皆さんにおいしいスパゲッティをこしらえてあげたいわ」と言った。皆が「空間」というものを思い浮かべた瞬間、一点は、何百光年、何万光年、何十億光年の距離に拡がり、「わしら」は宇宙の八方へ投げ出された。
*巨人が天地を分けて空間を作った、という話もある→〔天地〕3。
*宇宙の起源→〔宇宙〕5のドゴン族の宇宙創成神話(『アインシュタイン・ロマン』第4巻第3章)。
『狼疾記』(中島敦) 三造が小学4年生の時、担任の教師が、未来の地球の運命について話したことがあった。地球が冷却し、人類が滅びるばかりではない。何万年か後には、太陽も冷えて光を失い、真っ暗な空間を、黒い冷たい星どもが、誰にも見られずに、ただぐるぐると廻っているだけになってしまう。それを聞いて、三造はたまらなくなった。人類が無くなったあとの、無意義な・真っ黒な・無限の時の流れを想像すると、恐ろしさに堪えられなかった。
*果てしない空間を永遠にさすらう思惟→〔夢と現実〕4bの『不思議な少年』(トウェイン)。
『二次元の世界』(アボット) 「わたし」は、2次元世界に住む正方形だ。ある時、3次元世界から球が訪れ、「わたし」は球に連れられて、未知の方向である「上」へ向かう。「わたし」は2次元世界を見下ろす経験をし、初めて「高さ」というものを知った。この上には、さらに4次元・5次元・6次元・・・という世界も、存在するに違いない。「わたし」は2次元世界へ戻り、円や多角形たちに、3次元世界の実在を説く。そのため「わたし」は、刑務所に入れられてしまった。
★9.もしも、地球や月が二次元平面上の存在だったら、三次元世界から自在に操作できるだろう。
『「タルホと虚空」』(稲垣足穂) フランスの航空学者ペルテリー氏が月へ行く機械を発明した、との夕刊記事があった。「私(タルホ)」の友人オットーは、「ぼくにはもっと斬新な方法がある」と云って、卓上にあった紙片の両端に月と地球とを描き、紙を折りたたんで、両者を幾何学の証明のように重ね合わせてしまった。
*→〔千里眼〕1の『デイヴィドソンの不思議な目』(H・G・ウェルズ)でも同様に、紙を折り曲げて、千里眼現象の原理を説明する。
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