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発生生物学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2011/03/09 12:36 UTC 版)
発生生物学(はっせいせいぶつがく, Developmental biology)とは多細胞生物の個体発生を研究対象とする生物学の一分野である。個体発生とは配偶子の融合(受精)から、配偶子形成を行う成熟した個体になるまでの過程のことである。広義には老化や再生も含む。
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発生生物学の内容
「この分野は、言ってみれば「カエルの子はカエル」になる理由を、その経過を追うことで知ろうとするものである[要出典]」と表現された[いつ?][誰?]。他方、その理由を原因から調べようとするのが遺伝学であり、両者は裏表とも言える関係にある[要出典]が、この両者が結びつくようになったのは二十世紀後半以降のことである[要出典]。
この分野は、古くは発生学 (embryology) と呼ばれていたが、現在ではより広い意味を持たせた発生生物学という名称で呼ばれている。発生学ではウニなどの胚 (embryo) の発生を観察し記載することを主としていた。「これは技術的な限界により研究対象が大きくて透明な卵に限られていたためである」という[誰?]。また多種生物間での比較を主とする場合は比較発生学と呼ばれる。この分野は19世紀には比較解剖学とともに進化論を支える根拠となった。 その後に、移植などの操作を行う実験発生学と呼ばれる分野が発達してきた。
近年になり分子生物学や遺伝学、細胞生物学の手法・知見を取り込みながら発展し、研究対象は多様な生物種・発生過程に及んでいる。多様な生物の発生生物学的知見が蓄積され、それらを比較することにより進化を探ろうとする進化発生生物学 (evo-devo) も盛んになっている。
現在の発生生物学研究では主にモデル生物を用いて研究が行われる。動物全般のモデルとしてはショウジョウバエと線虫が、脊椎動物レベルとしてはニワトリ、アフリカツメガエル、ゼブラフィッシュ、メダカなどが、哺乳類のモデルとしてはマウスがしばしば用いられる。植物ではシロイヌナズナが最も有名。
発生生物学の知見は医療や農業の分野で発生工学として応用される。
再生
傷や欠損した器官の復活を再生 (生物学)という。再生は発生とは直接の関係がないが、その中では細胞の分化の過程があり、発生における現象に近い側面があるため、発生生物学の領域に含まれる。
歴史
古代ギリシアから既にヒポクラテスやアリストテレスなどによって、ニワトリの胚を用いた研究が行われていた。アリストテレスは他の動物についても観察しており『動物誌 Historia animalium』『動物部分論 De partibus animalium』『動物発生論 De generatione animalium』などにその考察をみることができる。この時期に、発生の原理について、前成説と後成説が興る。アリストテレスは後者に立ったが、これは少数派に属し、長く前成説の方が力があった。これは、卵の概念に混乱があり、昆虫の蛹や植物の種子も卵と同一視されていたことも大きい。
ウイリアム・ハーベーはほ乳錘の発生初期を観察し、卵を発見することはできなかったが、その存在を確信し、『すべては卵から[要出典]』との語を残した。しかし、生物研究に顕微鏡が使われるようになっても、長くこれが発見されることはなかった。精子の発見は、前成説論者を卵子論者と精虫論者に分けることになる。
発生の過程
発生過程の研究は、顕微鏡観察が行われるようになってから発達した。発生初期の観察には、細胞レベルの観察が不可欠だからである。 特に、無脊椎動物の各群の発生に関する知識の集積から、動物の発生における基本的な型があって、多くの動物の発生には共通した特徴があることがわかってきた。この分野、ないしその流れを比較発生学といい、19世紀に成立し、比較解剖学と併せて比較形態学と呼ばれた。それらをまとめて、そこに進化的な意味を見いだしたのがエルンスト・ヘッケルである。彼は各群の動物の発生が、その動物のたどってきた進化の過程を簡略化したものになっていると考えた。このことは『個体発生は系統発生を繰り返す』という表現で知られており、これを『反復説』という。
細胞説の影響
細胞説の成立は、発生学に多大な影響を与えた。すぐさま、卵や精子が単一の細胞であることが確認され、ここに初めて細胞数の増加とその配置や分化という、発生の基本的な仕組みが理解されるようになった。
発生機構の解明
18世紀までは生物の体はあらかじめ完全な形で形成されているという前成説が有力であった。顕微鏡を作成したレーウェンフックは様々な動物の精子を観察し、精子の中には完全な形をしたホムンクルスが入れ子になっているという前成説を支持した。これに対して、ヴォルフは1759年にニワトリ卵にいて器官の原基が小さい球体として生じる詳細を説明して、最初から器官の形が存在する訳ではないことを明確に述べた。これが後成説の成立と見なされる。その後19世紀には後成説がほぼ認められるようになった。
実質的なこの分野での発展は、ウィルヘルム・ルーによる実験発生学によって始まる。ルーは発生の各段階の胚にさまざまな刺激を与え、それによる胚発生の変わり方を見ることで、発生機構を解明しようとした。たとえば、彼の実験で有名なものに、カエルの卵の二細胞期に、片方の割球(細胞のこと)を加熱した針で殺す、というものがある。その結果、残りの割球は発生を続け、半分の形の胚ができた。このことから、彼は第一卵割の時に胚の左右の分化が起きると結論づけている。この実験は、割球を取り除くと完全な胚が生じるため、この結論は正しくないが、このような方法で発生の仕組みに迫ろうとしたものである。
なお、彼の研究は主としてヴァイスマンの生殖細胞質連続説に関わりが深い。この説は、遺伝子のようなものが親から子へと生殖細胞を通じて伝わるという遺伝の説という側面と、その中に含まれる決定要素が卵割によって配分されることで個々の細胞の分化が決まるとする発生論の側面があり、ルーの実験はその当否を確かめることを目指した。
彼の弟子であるハンス・シュペーマンは、彼の手法を推し進め、胚の切断や縛ることによる分断、胚の一部の交換移植などの技法を開発し、さまざまな実験を行った。その中で、イモリの胞胚から原腸胚初期の原口の上側(原口背唇部)を他の胚に移植すると、本来の胚が作る頭とは別に、移植した組織を中心として第二の頭が作られることを発見した。このことから、彼はその組織片が周囲の組織に働きかけ、表皮から神経管を作らせる能力があることを見つけた。彼はこの部分に形成体(けいせいたい・オーガナイザー)という名を与え、その働きを誘導と呼んだ。その後、誘導があちこちの組織でも起こっていることがわかり、誘導の連鎖によって動物体が作られてゆく仕組みについて詳しい研究がなされるようになった。
なお、誘導がどのような機構によるものかについての研究は、まず、殺した形成体にもその能力があることが発見された。このことは、形成体の働きがそこに含まれる物質によるものであることを示唆する。そこで、それがどのような物質であるかを解明することで、大きな進展があるものとの期待があった。しかしながら、研究が進むにつれ、特に関わりのなさそうな組織にも同じような働きのあるものが発見され、さらにはごく簡単な無機化合物にもそのような作用を持つものがあることが発見されたことから、次第にその方向での解明はあきらめられた。[要出典]
関連項目
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胚発生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2011/12/22 08:41 UTC 版)
(発生_(生物学) から転送)
胚発生(はいはっせい、英語:embryogenesis)または生物学における発生(はっせい)とは、多細胞生物が受精卵(単為発生の場合もある)から成体になるまでの過程を指す。広義には老化や再生も含まれる。発生生物学において研究がなされる。
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前成説と後成説
古くは、卵または精子の中に小さな人の形をしたもの(これをホムンクルスという)があらかじめ存在し(つまり、受精卵の中に、子孫の雛形がある)、発生はホムンクルスが大きくなる過程であるという前成説が唱えられた時代があった。後の研究で、そのようなものは存在しないことが明らかとなった。他方、受精卵の中には雛形に相当するものは何もなく、次第に形ができて来るという考え方を後成説という。
実際には顕微鏡を使用して、細胞レベルの観察が行われるようになって、具体的な発生の過程が観察できるようになった(もっとも、研究の初期には「顕微鏡を通してホムンクルスが観察された」といったような報告がされたこともあった)。動物の発生については多くの研究がなされているが、植物についてはかなり遅れて研究がなされた。
動物の発生過程
様々な無脊椎動物の発生過程の研究から、動物の発生には、一定の共通する型があると考えられるようになった。
卵割
詳細は「卵割」を参照
多細胞動物の発生は、受精卵の細胞分裂、いわゆる卵割から始まる。卵割は同調的な分裂により、細胞数を2の級数で増やす。通常は2細胞期に左右に、4細胞期に前後に、8細胞期に腹背に分かれる。卵黄の多い卵では、このとき動物極側(卵黄が少ない)の方が細胞が小さくなる。
胞胚期
ある程度細胞数が増えると、多くの場合、内部に空洞ができる。その外側は一層の細胞に覆われた形になる。この時期を胞胚(ほうはい)期と呼ぶ。胞胚の内部の空洞は卵割腔(らんかつこう)または、胞胚腔(ほうはいこう)と呼ばれる。ウニ卵は胞胚期に孵化し、表面に繊毛を持って泳ぐ。
卵割腔がなく、内部まで細胞で満たされるものもある。また、脊椎動物では複数の細胞層が生じる。
原腸の形成
胞胚の表面の細胞層が内部に入り込む。これは陥入(かんにゅう)と呼ばれる。そして、一つの口を持った袋を内部に形成する。これが消化管の始まりである。この袋は原腸と呼ばれ、その出入り口は原口と呼ばれる。この時期の胚を嚢胚(のうはい)または原腸胚(げんちょうはい)とよび、その形成を原腸胚形成 (Gastrulation) という。
刺胞動物や扁形動物では消化管には一つしか出入り口がない。その他の動物では消化管は管状である。そのような動物では、原口の反対側に新たにもう一つ出入り口ができる。このとき、どちらが口になるかは動物門によって異なる。軟体動物、節足動物、環形動物など、多くの無脊椎動物など原口動物(先口動物ともいう)では原口が口になるが、棘皮動物や脊椎動物など新口動物(後口動物ともいう)では原口は肛門になる。
胚葉の分化
原腸が陥入したことで、それまで平等に並んでいた細胞が、内側と外側に分かれたことになる。そこで、外に残った細胞群を外胚葉(がいはいよう)、内側に入った細胞群を内胚葉(ないはいよう)と呼ぶ。外胚葉からは主に表皮と神経が、内胚葉からは消化管が形成される。刺胞動物は、このような構造をほとんどそのままに成体になるので、二胚葉性動物と言われる。
それ以外の動物では、外胚葉と内胚葉の隙間に細胞群が入り込み、そこで発達を始める。この細胞群を中胚葉(ちゅうはいよう)とよぶ。中胚葉からは筋肉、血管系などが作られる。また、中胚葉からは体腔が作られる。これらの動物は三胚葉に分類される。
形態形成
ここから後は各器官が形成される段階になる。これを形態形成という。
形成体
ドイツのハンス・シュペーマンはイモリ胚での移植実験(1924年)から、原口背唇部(げんこうはいしんぶ)に分化を引き起こす作用を発見し、原口背唇部を形成体(オーガナイザー)と名付け、未分化の細胞群に分化を促す形成体の作用を誘導と呼んだ。
また、ドイツのフォークトが、イモリの胚を部分的に染色する「局所生体染色法」を開発した。フォークトはこれにより染色された胚がどのように分化するかの追跡調査を行い、胚が将来形成する原基の位置を示した原基分布図(予定運命図)を作成した(1929年)。
シュペーマンの実験において、原口背唇部の誘導の後に次々と組織・器官が形成されたことから、誘導の連鎖が推測された。
誘導の連鎖
一例として目の形成過程を以下に示す。
- 胚の原口背唇†(一次形成体)
- 脳の両側に形成される眼胞(がんぽう)→眼杯(がんぱい。二次形成体)
- 水晶体(三次形成体)
- 表皮の表層に働きかけ角膜を誘導する。
- † 原口背唇とは原口の上下にある細胞群のうち、背側(動物極側)にあるものをいう。原口を口とすると、この部位は唇の位置に当たるため、このような名前がつく。動物極とは、卵ができる過程で極体が放出される側を指す(動物極の反対側は植物極と呼ばれる)。極体とは、細胞核を持つが細胞質を持たない細胞で、減数分裂の途中で放出されるが、後々に退化して消えてしまう細胞。
誘導のメカニズム
誘導は分泌性因子を介した細胞間相互作用により行われると考えられるが、しばしば多数の因子が複雑な制御系を形成しており、分子メカニズムが解明されていないことも多い。例えば、上記の形成体の誘導にはWntシグナル系と呼ばれるシグナル伝達系路が重要であることが知られているが、その際にWntシグナル系がどのようにして活性化されるのかについては不明な点も多い。また、眼胞/眼杯による誘導には神経成長因子および骨形成因子が関与していると考えられているが、その詳細は明らかではない。
参考文献
- 『著者・鈴木孝仁 本川達雄 チャート式シリーズ 新生物II 数研出版 平成17年11月1日版』 ISBN 4410118811
- 『編・太田次郎 本川達雄 高等学校新編:生物I 新興出版啓林館 平成17年12月10日発行 平成14年3月10日検定済・高等学校理科用』
外部リンク
- “発生と腫瘍形成の共通性”. 理研CDB - 科学ニュース. 独立行政法人理化学研究所 (2007年11月1日). 2010年12月19日閲覧。
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