狸
★1.狸婿。
『お若伊之助』(落語) 生薬(きぐすり)屋の娘・お若が、一中節の師匠・伊之助と恋仲になる。親が2人を別れさせた後、狸が伊之助に化けてお若のもとへ通い、お若は身ごもる。狸は銃で撃たれて死ぬが、お若は月満ちて狸の双子を産む。しかし双子は生まれてすぐに絶命した。これを葬ったのが、根岸・御行(おぎょう)の松のほとりの因果塚である。
★2.狸女房。
『南総里見八犬伝』第9輯巻之5第100回~巻之16第121回 八百比丘尼妙椿は蟇田素藤と夫婦になり、妖術をもって彼を助け、里見家に仇をなす。妙椿の正体は、昔八房の犬を育てた安房の富山の牝狸であり、玉梓の恨みがその身に残っているので、素藤をそそのかして2度の反乱を起こさせたのだった。
★3.狸が人に化ける。
『絵本百物語』第20「芝右衛門狸」 淡路の国の芝右衛門という農民が、家に出入りして食を請う狸に、「人に化けてみよ」と言う。狸は50歳余りの人に化け、毎日やって来て、いろいろなことを芝右衛門に話す。古代のことを詳しく語ったので、それを聞く芝右衛門は、いつのまにか物知りになって、人々にもてはやされた。
『捜神記』巻18-8(通巻420話) 董仲舒が弟子に講義をしている時、1人の客が訪れる。普通の人間とは思えず、しかも「雨になりそうだ」などと言う。董仲舒が「『巣居は風を予知し、穴居は雨を予知する』というから、君は狐狸の類だろう」とからかうと、客は古狸に変じた。
*狸が肉親に化ける→〔死体変相〕4bの『耳袋』巻之7「古狸をしたがへし英勇の事」・〔変身〕8aの『狸腹鼓』(狂言)・『本朝二十不孝』巻4-4。
*2匹の狸が1人の女に化ける→〔性器(女)〕7の『聴耳草紙』(佐々木喜善)89番「狸の話(狸の女)」。
★4a.狸が仏に化ける。
『宇治拾遺物語』巻8-6 愛宕山の聖が、毎夜、普賢菩薩が白象に乗って姿を現わすのを尊び、礼拝する。猟師もこれを見るが、「罪深き自分などにまで仏身が見えるのは怪しい」と考え、とがり矢を弓につがえて、普賢菩薩を射る。翌朝、血のあとをたどると、谷底で大きな狸が死んでいた〔*『今昔物語集』巻20-13の類話では大猪。また、『宇治拾遺物語』巻13-9・『今昔物語集』巻20-12には、天狗の化けた阿弥陀仏にだまされ連れ出される僧の説話がある〕。
『新花つみ』(与謝蕪村) 「余(蕪村)」が結城の丈羽の別荘に滞在していた時のこと。夜、寝ようとすると、雨戸をどしどしどしどしと、20~30も叩く音がする。戸を開けると誰もいない。ふとんに入ると、またどしどしと叩く。狸が、背中を戸に打ちつけて、音を立てているらしかった。こうしたことが5夜ほど続いた後、里人が藪下という所で、老いた狸を撃ち殺した。以来、雨戸を叩く音はなくなった。「余」は狸を哀れに思い、「秋の暮れ仏に化ける狸かな」の句を詠んだ。
『文福茶釜』(昔話) 上野国館林・茂林寺の和尚が茶釜で湯を沸かすと、茶釜に尾・足が生え、狸の頭が出て、「熱い」と悲鳴を上げる。和尚は茶釜を屑屋に売り、茶釜狸は、「見世物小屋に出て芸当をします」と志願する。茶釜に4足の生えた不思議な化け物が綱渡りなどをするので評判になり、屑屋は大儲けする。
*狸が杭に化ける→〔返答〕3aの『湊(みなと)の杭』(昔話)。
*狸が8畳敷きの座敷に化ける→〔畳〕4の『絵本百物語』第10「豆狸」。
『現代民話考』(松谷みよ子)3「偽汽車ほか」第1章 大正時代(1912~26)の話。夜、汽車が走っていると、同じ線路の前方からも、汽車がこちらへ走って来る。機関士がブレーキをかけると、向こうの汽車はパッと消えてしまった。こんなことがたび重なるので、「狸のしわざだろう」と機関士は考え、次に汽車が現れた時、思い切って正面衝突する。しかし何事もなくこちらの汽車は走り続け、次の駅に着いた。翌朝、1匹の大狸がレールを枕に死んでいるのが見つかった(東京都品川区)〔*狐が汽車に化ける、という形もある〕。
『捜神記』巻18-10(通巻422話) 古狸が父親に化け、畑仕事をする息子2人を殴る。息子たちは帰宅して、それが化け物の仕業だったことを知る。後、本物の父親が息子を心配して畑へ様子を見に行く。息子たちは父親を化け物だと思い、殺す〔*その後何年もの間、古狸は父親に化けて暮らす〕。
★7.狸の恩返し。
『狸賽』(落語) 悪童たちにいじめられている狸を男が助ける。狸は返礼にさいころに化け、博打の時、男の望む目を出す→〔さいころ〕2a。
★8.狸のいたずら。
『まめだ』(落語) 膏薬屋の息子が歌舞伎の役者をしていた。雨の夜、傘の上に豆狸(まめだ)が乗って悪戯をするので、息子はトンボを切り、豆狸は地面に落ちて怪我をする。豆狸は怪我を治そうと、小僧に化けて膏薬を買いに来る。膏薬屋では、毎日売り上げの中に銀杏(いちょう)の葉が1枚入っているので不思議がる。豆狸は膏薬の塗り方を知らず、寺の境内で死ぬ。銀杏の落ち葉が風に吹かれて死骸の回りに集まるのを見て、膏薬屋の母と息子は、「狸の仲間から、たくさん香典が届いた」と言って哀れむ。
狸囃子(馬鹿囃子)の伝説 本所の人々が夜半に目覚めると、遠くからあるいは近くから、お囃子の音が聞こえてくる。どこでお囃子を奏しているのか、その出所はわからない(東京都墨田区・本所七不思議の1つ)。
『銭形平次捕物控』(野村胡堂)「たぬき囃子」 盗賊一味が盗みを行なう夜、人々の注意をそらせるため、寺の経蔵の中から笛と太鼓で狸囃子を奏する。音量を大きくしたり小さくしたりすると、狸囃子は近くにも遠くにも聞こえる。経蔵には入口が1つ、窓が2つあって、それぞれを開けたり閉めたりすると、狸囃子は東から聞こえたり西から聞こえたりするので、皆は不思議がった。
★9c.狸の腹鼓。
『ずいとん坊』(昔話) 夜、山寺のずいとん坊が寝ようとすると、雨戸の外から、狸が大きな声で「ずいとん、いるか」と呼ぶ。ずいとん坊はご馳走を食べ酒を飲んで元気をつけて、狸に負けない大声で「うん、いるぞ」と返事をする。狸とずいとん坊は「ずいとん、いるか」「うん、いるぞ」と叫び合うが、だんだん狸は元気をなくし、声が小さくなって、しまいには糸の切れるような声になった。翌朝、ずいとん坊が戸を開けると、狸は腹の皮が破れて死んでいた(長野県上伊那郡)。
『悟浄歎異』(中島敦) 孫悟空が悟浄に教えた。「『或るものになりたい』という気持ちが、この上なく純粋・強烈ならば、ついにはそのものになれる。変化の術が、人間にできずして狐狸にできるのは、人間には関心すべき種々の事柄が余りに多く、精神統一が至難であるのに対し、野獣は心を労すべき多くの瑣事を持たず、此の統一が容易だからなのだ」。
狸と同じ種類の言葉
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