犠牲
『グスコーブドリの伝記』(宮沢賢治) 木こりの子グスコーブドリは成人後、イーハトーブ火山局で元気に働いた。彼が27歳の年、寒冷な気候がイーハトーブを襲った。カルボナード火山を爆発させて気温を上げれば、飢饉を回避できる。しかしその作業をする最後の1人は、火山島から逃げられない。グスコーブドリが自ら犠牲となろうと志願し、イーハトーブの人々は無事に冬を過ごすことができた。
*→〔惑星〕5の『アルマゲドン』(ベイ)も同様に、1人が爆発現場に残って命を捨て、大勢の人々を救う物語である。
『ゴジラ』(香山滋) 暴れるゴジラから日本国民を救うため、化学者芹沢は自ら開発した酸素破壊剤オキシジェン・デストロイヤーを使用し、ゴジラを殺す(*→〔怪物退治〕3b)。しかし、この武器自体が人類にとって原水爆以上の脅威となるので、芹沢は、製造方法を知るただ1人の人間である自分自身を、ゴジラとともに抹殺する。
『今昔物語集』巻2-28 舎衛国の流離(るり)王が、迦毘羅衛国の釈種(=釈迦一族)に、戦争をしかける。釈種は殺生戒を守っているので、たちまち敗北する。釈種の長者釈摩男(しゃくまなん)が、「私は今から水底に沈む。私が沈んでいる間だけ、釈種の人々を逃がしてやってほしい」と流離王に請う。釈摩男は水中に入ると、頭髪を木の根に結びつけて死んだ〔*しかし釈種の人々は逃げ切れず、大勢が殺された〕。
『佐倉義民伝』 下総国佐倉藩の284ヵ村は、領主堀田上野介の悪政と重税に苦しむ。名主木内宗吾は一身を捨てて農民たちを救うべく、ひそかに江戸へ出て、東叡山寛永寺で将軍義政に直訴する。農民たちは救われるが、宗吾は捕らえられ処刑される〔*宗吾の妻子も刑死する〕。
『塩狩峠』(三浦綾子) 名寄から札幌へ向かう列車が塩狩峠を越える時、機関車の連結部がはずれて、客車だけが下り坂を走り始める。前方に急勾配のカーブがあり、脱線転覆は必至である。乗客の1人・敬虔な青年クリスチャン永野信夫は、線路上に飛び降り、自らの身体をもって車両を止め、他の乗客たちの命を救う。
*1人の女性が自分の血を吸血鬼に与えて、町を救う→〔吸血鬼〕1の『吸血鬼ノスフェラトゥ』(ムルナウ)。
*漂流するボートの中の男が、自分の肉を他の人に食べさせる→〔船〕7bの『自己犠牲』(安部公房)。
『失楽園』(ミルトン)第3巻 天上界の王座に坐す神が、アダムとイヴの犯すであろう罪を予見し、「その子孫である人間たちは堕落し、死なねばならぬ」と宣告する。神の右手に坐す御独子(おんひとりご)が、「私の命をもって、人間の死の罪を償いましょう」と、人間を救うために自ら犠牲になることを申し出る。神は喜び、御独子に「受肉し、処女の子として地上に誕生せよ」と命ずる〔*御独子はイエス・キリストとして生まれる〕。
『鉄腕アトム』(手塚治虫)テレビアニメ・第193話「地球最大の冒険」 太陽黒点に異常が起こり、地球の温度が急上昇する。アトムがロケットに乗り、太陽の活動を鎮静化させるためのカプセルを発射するが、隕石がカプセルに衝突し、軌道が狂ってしまう。アトムは自らカプセルにまたがり、進路を太陽に向け直して、カプセルもろとも太陽に突入する。
『ジャングル大帝』(手塚治虫) 不思議な力を持つ月光石を求めて、A・B両国の探検隊が海抜5530メートルのムーン山に登攀し、白ライオンのレオが同行する。しかし激しい吹雪で隊員たちは次々に倒れ、ヒゲオヤジ以外は皆死ぬ。レオは「わしを殺して肉を食べ、毛皮を着て下山しなさい」と告げ、わざとヒゲオヤジのナイフに刺されて死ぬ〔*『ブッダ』の中に出てくる、兎が自分の肉を飢えた老人に食べさせる物語と類似の発想〕→〔兎〕2。
『三宝絵詞』上-11 国王の3人の王子たちが竹林に出かけ、7頭の子を産んで衰弱した1頭の虎を見た。長男の王子が「この虎は、食物を探すことができず、飢えて自分の子を喰うであろう」と言った。末子の薩タ王子が「虎の命を救おう」と考え、衣を脱いで竹にかけ、自分の身を虎に喰わせた。
『大智度論』巻26 仏は遠い過去において、大きな身体をした力のある鹿だった。ある時、野火が起こり、獣たちは逃げ場を失った。鹿は自分の大きな身体を橋とし、背中を獣たちに踏ませて、川の対岸へ避難させた。鹿の皮と肉はことごとく壊れたが、慈愍の力をもって耐え忍び、ついに死に至った。
★4d.柳の木が自分の身を犠牲にして、蝗(ばった)の害を防ぐ。
『聊斎志異』巻4-138「柳秀才」 沂州の知事が蝗の害を心配していると、夢枕に1人の秀才が立ち、「明日、西南の道を、ろばに乗った婦人が通る。それが蝗の神だから、頼めば害を免れるだろう」と告げた。言われたとおり、翌日、知事は、ろばに乗る婦人を待ち受けて懇願する。婦人は「柳秀才のおしゃべりめ。その身に災いを与えてやるわ」と言う。やがて蝗の大群が飛んで来て天日を暗くしたが、田圃の稲には降りず、柳の木々の葉を食い尽くして去った。それで、あの秀才は柳の神だということがわかった。
『ゲスタ・ロマノルム』41 アテナイ王コドルスは、ドーリア人との戦争に際して、アポロ神から「コドルス自身が敵の剣で倒れなければ、勝つことはできぬ」との託宣を得た。それを知ったドーリア人は、戦場でコドルスに傷を負わせないようにした。コドルスは王衣を別の着物に着替えて敵軍へ攻め込み、敵兵の槍を心臓に受けて死んだ。コドルスは自分の死によって、アテナイに勝利をもたらした。
『魔弾の射手』(ウェーバー) 狩人カスパールは自分の魂を悪魔ザミエルに渡す代わりに、「新たな犠牲をささげよう」と提案し、「明日、狩人仲間マックスの撃つ弾丸を、マックスの恋人アガーテに命中させよ」と請う。アガーテが死に、マックスも悲嘆して自殺すれば、2つの魂が悪魔の手に入るからである。しかしマックスの撃った弾丸はカスパールに当たり、マックスとアガーテはめでたく結婚する。
『それから』(夏目漱石) 長井代助と平岡常次郎とは、中学時代からの親友だった。平岡が三千代への恋心を代助に打ち明けた時、代助は「自分の未来を犠牲にしても、平岡の望みを叶えるのが、友達の本分だ」と思った。代助は自らの三千代への思いを隠して、平岡と三千代の仲をとりまとめた(*→〔チフス〕1)。〔*しかし2人の結婚から3年後、代助は三千代に「僕の存在にはあなたが必要だ」と訴え、平岡に「三千代さんをくれないか」と言う〕。
*『こころ』では、Kがお嬢さんへの恋心を、親友の「先生」に打ち明ける→〔裏切り〕2。
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