政治道徳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 02:52 UTC 版)
詳細は「正義」を参照 政治において正義とは適切な均衡が存在する状態を言う。この基本的な正義の概念を理解する上で古代ギリシアの哲学者プラトンの議論が参考になる。プラトンは『国家』において正義は個人においては理性、意志、情欲の三つが精神的に調和している状態であり、国家においては政治家の知恵と軍人の勇気、そして庶民の節制の精神が調和している状態を指すものと論じた。しかし均衡をどのように実現するかについてより具体的に考えるならば、分配の問題に取り組む必要がある。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』で正義を道徳的に正当な利害の配分と捉え、もしこの配分が正当な均衡を失えば、それは不正な状態であるために是正しなければならないと論じた。 アリストテレスの正義の定式は現代に発展されている。哲学者ジョン・ロールズは『正義論』において共通善を自由と考え、恵まれない人々のために恵まれる人々の自由を制限することで、平等に自由に必要な基本財を分配する正義の理論を展開している。したがって恵まれない人々の基本的な自由を、恵まれた人々が負担することで社会の不正は是正されると論じた。この見解には反論がある。哲学者ロバート・ノージックは自己の自由を最大化するためにある程度の自由を制約しながら社会を形成するのであり、もし恵まれた人々の財産を他の人々のために制限するならば、それは不当な自由の侵害であると指摘した。これらの議論は社会において正義の基準が複合的に存在することを浮き彫りにしている。そこで哲学者マイケル・ウォルツァーは社会の多元性を踏まえた複合的平等を主張しており、またシュクラールが不正義によって被害を受けた人々の意見に注意することを提唱している。 正義論での諸々の立場は倫理学では徳倫理学、功利主義、そして義務論に系統化することができる。徳倫理学はプラトンやアリストテレスに代表される立場であり、いかに善い状態になるのかを主眼に置いている。また功利主義はジェレミ・ベンサムやジョン・スチュアート・ミルに代表される説であり、「最大多数の最大幸福」という言葉でしばしば要約されるように社会万人の利益になる行為を正当化する。そして義務論はイマヌエル・カントに代表される理論であり、理性を以って義務を確立し、それを実施することを正当化する。これらの道徳理論は政治理論や政治イデオロギー、公共政策を正当化している。
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