少年十字軍
子供十字軍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/23 01:38 UTC 版)
『海と夕焼』の主人公の安里が、少年アンリだった1212年に、キリストのお告げにより同志を率いてマルセイユに向かったという設定は、実際にあった「子供十字軍」の歴史的エピソードとほぼ合致しており、三島がこれを元にしていたことが看取され、実際に三島自身も、翻訳者のジョン・ベスターを交えた対話中で、〈チルドレンズ・クルセイドの話〉を題材にしている旨を語っている。 歴史書によれば、フランスのヴァンドームに住んでいた牧童エティエンヌが、1212年に「十字軍」を勧請する神秘的告知を語り、聖地エルサレムを奪還するために周囲の子供らと「子供十字軍」を結成してマルセイユから船出するが、船主に騙されて奴隷としてチュニジアやエジプトに売り飛ばされてしまったとされている。 しかし、エティエンヌがインドに売られ、そこで大覚禅師に救われて日本にやって来るというエピソードは歴史書にはなく、これは三島の創作したオリジナル設定となっている。また、牧童エティエンヌはヴァンドーム出身だが、三島はアンリの出身地をトゥールーズ伯爵の御領地のセヴェンヌにあえて設定している。 このセヴェンヌの地では、「子供十字軍」が結成される3年前に「アルビジョア十字軍」が起ったという歴史があり、セヴェンヌは「第1回十字軍」の英雄レーモン・ド・サン=ジルの出身地でもあった。三島の蔵書には独逸浪漫派叢書があり、その中の1冊であるティークの『セヴァンヌの叛乱』(青木書店、1943年刊)には、「アルビジョア十字軍」の熾烈な戦いが綴られている。 三島はそういった「十字軍」の壮絶な戦いの背景を、より強調するために牧童エティエンヌの出身地をセヴェンヌに改変したのではないかと小埜裕二は考察している。
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