冥界の穴
*関連項目→〔穴〕
『国家』(プラトン)第10巻 戦士エルの魂が身体を離れ、ある不可思議な場所に行くと、大地に2つの穴があり、天にも2つの穴が口を開けていた。前者は地下界への往路と復路、後者は天上界への往路と復路であり、正しい人は上に向かう道、不正な人は下へ向かう道を行くよう、裁判官が命じた→〔くじ〕1。
*天界への道と地獄への道→〔冥界の道〕1の『天界と地獄』(スウェーデンボルグ)。
『今昔物語集』巻17-19 浄照が死んだ時、恐ろしい様子をした2人の者が来て、浄照を黒い山の中にある1つの穴に押し入れた。穴の中を落ちて行く間、激しい風が吹きつけて、堪え難かった。遥か下方に落ちて、浄照は閻魔の庁に到った→〔地獄〕2。
『続古事談』巻5-49 能定という男が死後4日を経て蘇生し、冥府での体験を語った。能定は地獄へ送られたが、不動明王の化身である童子が「能定の寿命はまだ尽きていない」と閻魔王に告げ、救い出してくれた。大きな穴の口まで連れて行かれ、中へ押し入れられる、と思ったら、能定はこの世に生き返っていたのだった。
『黄金のろば』(アプレイウス)第6巻 ラケダイモーン(=スパルタ)の片田舎タイナロス岬に、「冥王の息抜き穴」と言われる洞窟がある。プシュケは、洞窟内の荒れ道を歩いて、冥府の宮殿に到る。彼女は、冥王の妃ペルセポネから、美の小箱をもらって地上に戻る。
『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)6編下「京」 大仏殿方広寺の柱に、四角に切り抜いた穴があり、くぐり抜ければ極楽往生できるといわれる。弥次郎兵衛が四つん這いになって穴をくぐろうとするが、肥っているので途中でつかえる。後戻りしようとしても、脇差の鍔が横腹につかえて動けない。喜多八が参詣の人たちの力を借り、弥次郎兵衛の身体を足の方から引き抜く〔*結局、穴をくぐり抜けられなかったわけである〕。
*「柱の穴をくぐり抜けて極楽往生」は、→〔針〕6の「針の穴を通って天の国に入る」(『マタイによる福音書』第19章)と、類似する発想である。
『聊斎志異』巻4-142「ホウ都御史」 ホウ都県城外に閻羅王の法廷と伝えられる深い洞窟がある。中で使われる刑具はすべてこの世のもので、枷や鎖などが古くなると洞窟外に投げ出される。それを新品と取り替えておくと、翌朝にはなくなっている。
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