冥府往還
『江談抄』第3-39 小野篁は、現世で朝廷の臣として仕えると同時に、冥府で閻魔庁の第2の冥官を勤めていた。藤原高藤が頓死した時、小野篁が高藤の手を取って引き起こし、高藤は息を吹き返した。高藤は小野篁を拝み、「私は死んで閻魔庁へ行った。すると、この君が第2の冥官として坐しておられた」と述べた〔*『今昔物語集』巻20-45では、大臣良相が病死し、閻魔王宮の臣となっている小野篁に出会う。小野篁は大臣良相を現世に返し、『このことは秘密に』と言う〕。
『今昔物語集』巻9-31 県令である智感という男が、冥府の権官(ごんかん。仮りの役人)に任ぜられ、裁判所の書記を3年間勤めた。彼は毎日、昼は現世で県令として仕事をし、夜は冥府へ行って裁判に従事した。智感が冥府の酒食を口にしようとすると、冥官が「君は権官だから、食べてはいけない」と言って止めた。
*→〔夜〕2cの『今昔物語集』巻4-26の無着菩薩は、昼は現世にいて、夜は兜率天へ昇った。
★2.数日おきに死んだり生き返ったりして、現世と冥府を往還する。
『聊斎志異』巻3-96「閻羅」 莱蕪(山東省)の李中之という人は、数日おきに死んで、3~4日して生き返ることを繰り返した。死んでいる間のことを尋ねても、彼は極秘にして、人に漏らさなかった。同県の張生という者も、数日に1度死んだ。張生は「李中之は閻魔だ。私が冥府へ行くと、彼の属官になる」と人に語った。先頃、李中之は曹操を裁判して、笞叩き20にしたのだという。
*1日おきに生きたり死んだりするが、死んでいる間は「無」だ、という男の物語もある→〔死〕5の『死んでいる時間』(エイメ)。
★3.当人が気づかないうちに、現世と冥府を毎日毎夜往還している。
『続夷堅志』「腋の下の腫れもの」 死後3日たって蘇生した男が寺参りに行き、そこで出会った僧に、「私は冥府であなたを見た」と告げる。「獄卒が鉄の棒であなたの腋の下を突き、血が流れていた。あなたは経文のとばし読みをしたため、罰を受けていた」。僧は腋の下に腫れものができており、夜になると痛むので、「自分は知らなかったが、毎夜冥府に呼び出されて責苦を受けていたのだ」と悟った。
- 冥府往還のページへのリンク