モーグ・シンセサイザーとは? わかりやすく解説

モーグ・シンセサイザー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 09:56 UTC 版)

モーグ・シンセサイザー英語: Moog Synthesizer)は、アメリカの電子工学博士であるロバート・モーグが開発したアナログシンセサイザー及びその製品群である[1]。「ムーグ」と表記されることがあるが、後述の通りこれは誤りであると公式に表明されている。


  1. ^ a b c
    モーグ以前のシンセサイザー
    1960年代のモジュラー・シンセ登場前から、シンセサイザーと同様な電子楽器(およびソフトウェア楽器)はいくつも歴史に登場している。もし1960年代のシンセサイザーをそれ以前と峻別すべき理由があるとしたら、それは「シンセサイザー」(Synthesizer)という名称の採用と、トランジスターによるコンパクトな実装、の二点に過ぎないかもしれない。
    RCAマークII(1957年)
    • シンセサイザーの名称は、1957年RCAマークIIサウンド・シンセサイザー (RCA Mark II Sound Synthesizer)がその起源とされている。RCAマークIIは真空管を使った巨大なコンピュータ専用音源で、その信号処理フローは後のモーグ・シンセサイザーの標準的構成 (VCO-VCF-VCA, ENV) とほぼ一致している(構成図 参照)。
    Buchla 100 (1963年)
    • トランジスターを使ったシンセサイザーは、1961年ハラルト・ボーデが論文で提案し (H. Bode, "European electronic Music Instrument Design" , journal of the audio engineering society, ix (1961年), 267)、1960年代前半に ブックラ (Buchla)、モーグ (R.A.Moog,Inc.)、アープ (ARP) をはじめ各社が相次いで製品化した。1963年の ブックラ100シリーズ (Buchla 100 series Modular Electronic Music System) は、モーグ・モジュラーより約2年先行している。ハラルト・ボーデは1930年代より電子楽器開発を開始し、1940 - 50年代には有名なボン大学の電子音楽スタジオに電子楽器を納入した他、他メーカー (WurlitzerEstey Organ、Apparatewerk Bayern Germany) の製品開発を行った。1960年代は航空産業の研究所に居たためシンセサイザー開発競争には直接参加していないが、1963年にはBode Sound Co.を設立してR.A.Moog Co.にいくつかの製品ライセンスを提供(フリーケンシー・シフターとリング・モジュレータ)、リタイア後の1970年代にはBode Vocoderを開発しMoog MusicにOEM供給、そして1977年末モーグ博士退社後のMoog Musicではチーフエンジニアとして活躍した。(出典: 120 Years of Electronic Music)
    Mixtur Trautonium (1952年)
    この他、現在ではアナログ・シンセサイザーの特徴と見なされている機能の多くは、実はモーグ・シンセサイザー登場以前の1930年代 - 1950年代に登場している。
    • フィルタエンベロープ制御を採用した分周式ポリフォニックシンセ (Polymoog系):1937年に登場したハモンドによるハモンド・ノヴァコード (Hammond Novachord)は量産型シンセおよびポリフォニック・シンセの草分けで、当時の価値で家一軒分に相当する高価な製品だった。しかし、1939年 - 1942年の3年間で1069台が販売され、1960年代まで数多くの映画/ラジオ/テレビドラマの劇伴に使用された。この他、1930年 - 1950年代のTrautonium改良版 (Concert Trautonium (1936年, Friedrich Trautwein)、Mixtur Trautonium(1952年, Oscar Sala))も フォルマント・フィルタ や エンベロープ制御を採用している (なお音響合成方式はsubharmonic synthesisとされている)。
    Electronic Sackbut(1940年代)
    • 電圧制御方式と 3次元リアルタイム・コントローラ (ホイールやジョイスティックの元祖): 1940年代ヒュッヒ・レ・カイネ (Hugh Le Caine) による エレクトロニック・サックバット (Electronic Sackbut)。
      • リボンコントローラ: 1929年フリードリッヒ・トラウトヴァイン (Friedrich Trautwein) による トラウトニウム (Trautonium) は、鍵盤の代わりにニクロム線を指で押さえて、音程を連続的に変更できるリボンコントローラ・タイプの電子楽器である。
      • 非接触リアルタイム・コントローラ (テルミン/AirFX/D-Beam系): 1953年 - 1958年にアメリカの作曲家レイモンド・スコット (Raymond Scott) によるシーケンサ付き電子楽器クラヴィヴォックス (Clavivox)は、そのコントローラ部にR.A.Moog Co.のテルミンを流用した。後にモーグ博士は、先行したクラヴィボックスの回路や音が、1960年代モーグ製品と類似していた事を率直に語っている。(出典: Bob Moog, Memories of Raymond Scott Archived 2011年11月6日, at the Wayback Machine., Official Raymond Scott site)
    • ポータブル・シンセサイザー: 1940年にハモンドによる ハモンド・ソロボックス (Hammond Solovox) をはじめ、電子オルガンやピアノと併用するタイプの小型電子鍵盤楽器がいくつも製品化された。 トランジスタ・シンセサイザーとしては、1969年の EMS VCS3 が、ミニモーグより1,2年先行した。
    • ディジタルシンセサイザーソフトウェア音源: 1957年ベル研究所のマックス・マシューズ (Max Mathews)が開発した音響処理プログラム MUSICが元祖とされる。後継プログラムは世界中に広がり、1967年のFMアルゴリズム発見など多くの成果につながった。現在ではオープンソース化されて CsoundCMixCMusic として広く一般に入手可能である。
  2. ^ a b c d e
    Cantos Music Foundation
    モーグ・シンセサイザーの初期カスタムメイド品やプロトタイプがいくつか、カナダのCantos Music Foundation に収蔵・展示されている。
    • 1CA Chris Swanson Modular System (1965年, 写真:左端)
    • Lyra (1973年, プロトタイプ, 写真:2列目中段)
    • Apollo (home unit) (1974年, プロトタイプ)
    • Patrick Moraz Double Minimoog (1973年, 写真:3列目下段)
    • Micromoog II, Micromoog XL (1977年, 写真:4列目中段)

    Collection Checklist”. Cantos Music Foundation. 2010年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月18日閲覧。

  3. ^ GIZMODO(テクノロジー情報サイト、(株)メディアジーン運営)、「これぞ究極のシンセサイザー。伝説の名機Minimoogが機能を増強して復刻」2022.11.22”. 2024年3月22日閲覧。
  4. ^ 谷口文和, ‎中川克志, ‎福田裕大『音響メディア史』ナカニシヤ出版、2015、253頁。 
  5. ^ マーク・ブレンド/著 ヲノサトル/訳『未来の<サウンド>が聞こえる 電子楽器に夢を託したパイオニアたち』アルテスパブリッシング、2018、335頁。 
  6. ^ マーク・ブレンド『未来の<サウンド>が聞こえる 電子楽器に夢を託したパイオニアたち』アルテスパブリッシング、2018、298頁。 
  7. ^ GIZMODO(テクノロジー情報サイト、(株)メディアジーン運営)、「これぞ究極のシンセサイザー。伝説の名機Minimoogが機能を増強して復刻」2022.11.22”. 2024年3月20日閲覧。
  8. ^ Moog Minimoog A Prototype, Audities Foundation
  9. ^ Moog Minimoog B Prototype, Audities Foundation
  10. ^ Moog Minimoog C Prototype, Audities Foundation
  11. ^ Moog Minimoog D Prototype, Audities Foundation
  12. ^ a b the Constellation, MoogArchives.com; The Moog Constellation, MATRIXSYNTH
  13. ^ Personal Instrument Collection, MoogArchives.com - 左下にApolloプロトタイプ (1999年にAudities Foundationへ寄贈); カナダのCantos Music Foundationにも展示がある。
  14. ^ Moog Sonic Six, MoogArchives.com
  15. ^ muSonics Sonic V, MoogArchives.com
  16. ^ Robert Moog (1 1954). “The Theremin”. Radio & Television News. http://www.moogarchives.com/therem01.htm. ;
    The Early Theremins (1954-), MoogArchives.com
  17. ^ Robert A. Moog (1 1961). “A Transistorized Theremin”. Electronics World. http://www.moogarchives.com/there61a.htm. ;
    The Early Theremins (1960-), MoogArchives.com
  18. ^ Bob Moog. “Memories of Raymond Scott”. Official Raymond Scott site. 2011年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月15日閲覧。
  19. ^ Category:Vocoder”. sequencer.de. 2009年9月21日閲覧。
  20. ^ Wendy's Moog Synthesizer in 1979”. 2009年9月21日閲覧。
    Synthesizer 55型モジュラーシンセの4段目となる10バンド・ヴォコーダ。出力部を改造した907 fixed filter bank, 914 fixed filter bank, 10バンド分の912 envelope follower, 902 VCA 等で構成されていた。
  21. ^ Moog Vocoder”. Vintage Synth Explorer. 2009年9月19日閲覧。
  22. ^ Personal Instrument Collection, MoogArchives.com - 右下にDSC Sequencer (1999年にAudities Foundationへ寄贈); Moog DSC Sequencer, Audities Foundation
  23. ^ Moog Sanctuary, Synthmuseum.com; Moog Sanctuary, MATRIXSYNTH
  24. ^ Lab Series SynAmp, MoogArchives.com; Moog SynAmp, 2dehands.de
  25. ^ Moog Song Producer, C64Music!; Moog Song Producer, MATRIXSYNTH
  26. ^ the operator by moog”. moogarchives.com. 2009年9月15日閲覧。
  27. ^ Moog SL-8, MoogArchives.com; SL-8 development and demise, MoogArchives.com; Moog Prototype SL-8, MATRIXSYNTH
  28. ^ Gizmotron: The Stomping Ground Musitronics, Mu-Tron, and the Gizmotron”. Beigel Technology Corporation. 2009年9月15日閲覧。
  29. ^ a b 2008年新生Moog Musicは、Gizmoと同様に弦の振動制御で演奏表現を広げたギター製品 Moog Guitar を発売した。なお振動制御方式にはGizmoと同様な機械的摩擦でなく、E-Bowと同様な電磁気学的効果を採用している。
    「無限のサステイン」も可能、Moogの新開発ギター:動画”. WIRED.jp (2008年6月12日). 2009年9月15日閲覧。
  30. ^ Ray Kurzweil (2005年). “Robert Moog (1934-2005) tribute”. WIRED.jp 13.11: Posts. WIRED.jp. 2009年9月15日閲覧。
  31. ^ a b Big Briar to Moog Music”. Moog Music. 2009年9月21日閲覧。
  32. ^ Introducing the Moog PianoBar”. Moog Music. 2009年10月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月21日閲覧。
  33. ^ a b c 『TOMITA SOUND CLOUD 音の雲』NHK出版 2003年
  34. ^ a b 日本国内におけるモーグ・モジュラーの初期購入顧客としては、前述のヤマハ(当時:日本楽器)や冨田勲の他に、東京芸術大学愛知芸術大学の名が挙がっている。
    シンセサイザの歴史とテルミン - ThereminとDr. Robert A. Moog -”. Page of the Theremin. 2009年8月27日閲覧。
  35. ^ a b 冨田勲の購入時期については1971年9月頃とする説もあるが、いずれにせよモーグ社から飛鳥貿易への出荷記録とほぼ合致する。
    トミタ詳細年表/TOMITA Detailed Chronology”. Nasu Fantasia. 2009年8月27日閲覧。
  36. ^ "Programmer's Artist Popularity Poll", Billboard Magazine, vol. 87, August 16, 1975.
  37. ^ Shirleigh Moog (1978). Moog's Musical Eatery: A Cookbook for Carefree Entertaining. The Crossing Press. ISBN 0895940019 
  38. ^ 冨田勲さんのシンセサイザー






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