ブラウン‐うんどう【ブラウン運動】
ブラウン運動
【英】:Brownian motion
概要
次の性質を満たす実数値連続確率過程 .
(1) 重ならない区間における の増分は互いに独立.
(2) は平均0, 分散 の正規分布にしたがう.
(3) かつ は で連続.
拡散係数 のときを標準ブラウン運動, をドリフトをもつブラウン運動と呼び, をドリフト係数と呼ぶ.
詳説
ランダム・ウォーク (random walk) とその連続化であるブラウン運動は, でたらめな動きを表現する最も基本的な確率過程で, 幅広い応用がある.
ランダム・ウォーク を互いに独立で同一の分布に従う確率変数の列とするとき,
(定数),
によって定義される確率過程 をランダム・ウォークと呼ぶ. 特に, ある およびすべての に対して, であるとき, は (1次元の) 単純ランダム・ウォークであるといい, さらに のとき, 単純ランダム・ウォークは対称であるという. また, 「壁」によって動きが止められたり, 動く範囲が制限されるランダム・ウォークを考えることもできる. の独立性より, ランダム・ウォークはマルコフ過程となる.
初期値 のランダム・ウォークにおいて, ステップ後の位置の期待値と分散は, それぞれ , となり, 時間の経過に比例する. 分散が時間の経過に比例することから, ランダム・ウォークは時間が経つにつれて次第に拡散していくことが分かる.
, として得られる単純ランダム・ウォーク は, 整数を状態空間とする周期2の既約なマルコフ連鎖である. このマルコフ連鎖は のとき一時的であり, ならば零再帰的となる. たとえば ならば はだんだん大きくなっていく傾向があり, 正の方へドリフトする. このため出発点に戻ることは保証できなくなり一時的となるのである.
2次元の対称な単純ランダム・ウォーク(2次元格子点空間上の4つの隣接点にそれぞれ確率 で推移する) は零再帰的, 3次元以上の単純ランダム・ウォークはすべて一時的であることも知られている [1].
単純ランダム・ウォークからブラウン運動へ を初期値 の対称な単純ランダム・ウォークとする. このランダム・ウォークが1ステップ進むのに だけ時間がかかるとして, と を同時に0に近づけることを考える. に対して, 時刻 にランダム・ウォークが にいる確率を と表すと, は差分方程式 を満たすので,
を得る. 式 (2) は拡散方程式 (diffusion equation) と呼ばれ, その解は初期条件, のもとで, 正規分布 の密度関数となる. より一般的には, 初期値が0の (必ずしも対称でない) 単純ランダム・ウォークにおいて, , を保ったまま とすると, 時刻 での位置が正規分布 に従う確率過程が得られる [1].
ブラウン運動 イギリスの植物学者ブラウン (R. Brown) は, 水面に浮く花粉中の微粒子が極めて不規則な動きをすることを見いだした. アインシュタイン (A. Einstein) は, この運動が拡散方程式 (2) によって特徴づけられることを示し, その後ウィナー (N. Wiener) らによって確率過程としての基盤が築かれた. この確率過程をブラウン運動 (Brownian motion) またはウィーナー過程 (Wiener process) と呼ぶ.
(1次元の) ブラウン運動 は次の性質を満たす実数値確率過程である:
- 3. かつ は で連続.
1. より, 時刻 以降の の振る舞いは までの履歴には依存しないため, ブラウン運動はマルコフ過程である. さらに, ブラウン運動が強マルコフ性を持つこと, 標本路が連続となることも知られている [2].
を拡散係数と呼び, 特に のブラウン運動を標準ブラウン運動と呼ぶ. また, によって定まる をドリフトを持つブラウン運動と呼び, をドリフト係数と呼ぶ.
鏡像原理 ドリフトのないブラウン運動 に対して を が初めて を横切る時刻とすると, は停止時 (stopping time) となる. において と に関して対称な標本路を持つ確率過程 を
で定める. が強マルコフ性を持つことと, と の対称性から, と は同じ確率法則に従うことがわかる. 一般にこのような性質を鏡像原理 (reflection principle) と呼び, 初到達時間の分布などを求める際に利用される.
拡散過程 ドリフト係数や拡散係数が位置 や時刻 に依存した値, をとるように一般化して得られる確率過程 を拡散過程 (diffusion process) と呼び, と を, それぞれドリフト関数, 拡散関数と呼ぶ. 拡散過程は強マルコフ性を持ち, その標本路は連続である. 逆に, 連続な標本路を持つマルコフ過程は拡散過程となることが知られている.
ブラウン運動や拡散過程の標本路は, 連続であるがいたるところで微分不可能という性質を持っている. このため拡散過程の解析においては, 確率積分や確率微分方程式といった通常の微分や積分とは異なる概念が必要となる [3, 4].
[1] W. Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume 1, 2nd Ed., John Wiley & Sons, 1957. 河田龍夫監訳, 『確率論とその応用 I』, 紀伊国屋書店, 1960 (上巻), 1961 (下巻).
[2] K. Itô and H. P. McKean, Diffusion Processes and Their Sample Paths, Second Printing, Springer-Verlag, 1996.
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ブラウン運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/12 05:19 UTC 版)
ブラウン運動(ブラウンうんどう、英: Brownian motion)とは、液体や気体中に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象である。1827年[注 1]、ロバート・ブラウンが、水の浸透圧で破裂した花粉から水中に流出し浮遊した微粒子を、顕微鏡下で観察中に発見し[2]、論文「植物の花粉に含まれている微粒子について」で発表した[3]。
注釈
出典
- ^ a b 小岩昌宏、中嶋英雄『材料における拡散:格子上のランダム・ウォーク』堂山昌男・小川恵一・北田正弘(監修)、内田老鶴圃〈材料学シリーズ〉、2009年12月、17-21頁。ASIN 4753656373。ISBN 978-4-7536-5637-0。 NCID BB00508924。OCLC 491332824。全国書誌番号:21783789 。
- ^ a b 有馬秀次. “ウィーナー過程とブラウン運動”. 金融用語辞典. 金融大学. 2015年12月27日閲覧。
- ^ Brown (1828)
- ^ a b Einstein (1905)
- ^ 田崎晴明. “ブラウン運動と非平衡統計力学” (PDF). 学校法人学習院. 2015年12月27日閲覧。
- ^ Sutherland (1905)
- ^ P. Hänggi. “Stokes-Einstein-Sutherland equation” (PDF). 2017年1月11日閲覧。
- ^ von Smoluchowski (1906)
- ^ Bachelier (1900)
- ^ 寺西. “ブラウン運動”. 用語集. NPO法人筑波微粒子・界面・環境研究会. 2015年12月27日閲覧。
- ^ ブラウン運動 抵抗の熱雑音 (RTF)
- ^ Brownian Motion and Molecular Reality
- ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『ペランの実験』 - コトバンク
ブラウン運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/02 06:38 UTC 版)
ブラウン運動は不連続的な粒子が液体中で拡散するときに起きる。熱エネルギーによるものであるから、運動が観測できる( v ∼ k B T / m {\displaystyle v\sim {\sqrt {k_{B}T/m}}} )ためには、対象粒子の質量は非常に小さいものでなければならない。運動の方向はランダムで常に変化している。ブラウン運動は原理的には気体中でも起きるが、気体中の微粒子の運動はふつう拡散のほか乱流に支配されているため観測しにくい。
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ブラウン運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 13:08 UTC 版)
詳細は「ブラウン運動」を参照 ブラウン運動は、流体内に浮遊する粒子の無作為運動を説明する数理モデルである。気体の拡散は気体分子運動論で説明することもできるし、素粒子物理学でも説明できる。 気体の個々の粒子(原子や分子)を観察するテクノロジーには今のところ限界があり、それらが実際にどのように動いているのかについて理論的計算でしか示せないが、その動きはブラウン運動とは異なる。ブラウン運動では気体分子が問題の粒子と何度も衝突することで頻繁に粒子の向きが変わる。この粒子は一般に原子数百万個から数十億個の大きさであるために衝突しやすく頻繁に向きを変えるのであって、気体分子そのものはそれほど頻繁に衝突しないと考えられる。
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ブラウン運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/02 01:18 UTC 版)
1905年、アルベルト・アインシュタインは、ブラウン運動に関する論文を著し、ブラウン運動を起こしている不規則な運動が、流れの中で粒子を引き留める力をも生み出すことを明らかにした。つまり、静止流体でのゆらぎは流体を流す外力を与えた場合の摩擦力、すなわち散逸的な力と共通の原因を有するということである。ブラウン運動に関するアインシュタイン-スモルコフスキーの関係式は次で与えられる: D = μ k B T . {\displaystyle D={\mu k_{\mathrm {B} }T}.} ここでD は粒子の拡散係数、μ は移動度(外力F に対する粒子の終端ドリフト速度 vd の比 μ = vd/F )であり、この式が両者の関係を示している。またkB はボルツマン定数、T は熱力学温度である。この関係式は1906年にアインシュタインとは独立して、当時のオーストリア=ハンガリー帝国のポーランド人科学者、マリアン・スモルコフスキー(英語: Marian Smoluchowski) が発見している。
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