フーガの技法とは? わかりやすく解説

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フーガのぎほう〔‐のギハフ〕【フーガの技法】

読み方:ふーがのぎほう

原題、(ドイツ)Die Kunst der Fugeバッハ作品。全19曲。ニ短調1749年後半の作。19曲目未完。高度な対位法駆使しており、オルガンピアノなど、鍵盤楽器演奏されることが多い。


バッハ:フーガの技法

英語表記/番号出版情報
バッハ:フーガの技法Die Kunst der Fuge BWV 1080作曲年: 1742-49年 

作品概要

楽章・曲名 演奏時間 譜例
1 コントラプンクトゥス 1 Contrapunctus 1 BWV1080/1No Data No Image
2 コントラプンクトゥス 2 Contrapunctus 2 BWV1080/2 No Data No Image
3 コントラプンクトゥス 3 Contrapunctus 3 BWV1080/3No Data No Image
4 コントラプンクトゥス 4 Contrapunctus 4 BWV1080/4No Data No Image
5 コントラプンクトゥス 5 Contrapunctus 5 BWV1080/5No Data No Image
6 コントラプンクトゥス 6: フランス様式による4声コントラプンクトゥス 6 Contrapunctus 6 a 4 in Stylo Francese BWV1080/6No Data No Image
7 コントラプンクトゥス 7: 拡大縮小による4声 Contrapunctus 7 a 4 per Augmentationem et Diminutionem BWV1080/7No Data No Image
8 コントラプンクトゥス 8: 3声 Contrapunctus 8 a 3 BWV1080/8No Data No Image
9 コントラプンクトゥス 9: 12度転回対位法による4声 Contrapunctus 9 a 4 alla Duodecima BWV1080/9No Data No Image
10 コントラプンクトゥス 10: 10度転回対位法による4声 Contrapunctus 10 a 4 alla Decima BWV1080/10No Data No Image
11 コントラプンクトゥス 11 Contrapunctus 11 a 4 BWV1080/11No Data No Image
12 コントラプンクトゥス 12: 正立4声 Contrapunctus 12 a 4. a) Forma inversa BWV1080/12.1No Data No Image
13 コントラプンクトゥス 12: 倒立4声 Contrapunctus 12 a 4. b) Forma recta BWV1080/12.2No Data No Image
14 鏡像コントラプンクトゥス: 正立3声 Contrapunctus inversus a 3. a) Forma recta BWV1080/13.1No Data No Image
15 鏡像コントラプンクトゥス: 倒立3声 Contrapunctus inversus a 3. b) Forma inversa BWV1080/13.2No Data No Image
16 コントラプンクトゥス: 4声 Contrapunctus a 4 BWV1080/10aNo Data No Image
17 反行形による拡大カノン Canon per Augmentationenm in Contrario Motu BWV1080/14No Data No Image
18 8度カノン Canon alla Ottava BWV1080/15No Data No Image
19 3度転回対位法による10度カノン Canon alla Decima in Contrapunto all Terza BWV1080/16No Data No Image
20 5度転回対位法による12度カノン Canon all Duodecima in Contrapunto alla QuintaNo Data No Image
21 2台チェンバロのための鏡像フーガ: 正立 Fuga inversa a 2 Clavicembali: a) Forma inversa BWV1080/18.1No Data No Image
22 2台チェンバロのための鏡像フーガ: 倒立 Alio modo. Fuga inversa a 2 Clavicembali: b) Forma recta BWV1080/18.2No Data No Image
23 3つの主題によるフーガ Fuga a 3 Soggetti BWV1080/19No Data No Image
24 コラール《われら苦しみ極みにあるとき》の旋律による4声フーガ Choral: Wenn wir in Höchsten Nöten sein. Canto fermo in Canto BVW668aNo Data No Image

作品解説

2007年9月 執筆者: 朝山 奈津子

 《フーガの技法》は、謎めいた未完フーガバッハ最晩年逸話あいまって伝説的なオーラ放っている。作曲家の死の直後出版されからこれまで絶え人々関心集め、なかば崇拝にも近い賛辞贈られた。しかし栄光反して実際に演奏される機会それほど多くない。それは、バッハ意図した楽器編成判然としないことに大きな原因があるが、伝説的なオーラ近づきがたいイメージ固めてしまった所為でもある。バッハ確かにかなり抽象的理念的性質をこの曲集に与えたのではあるが、実際に演奏可能なことが何より大前提だった筈だ。そこで、具体的に各曲に迫るためにまず、この作品あらわれる「技法」とは何か、それらが音楽的にどのように成功しているのかを確かめてみよう。はじめに強調しておくが、ここに含まれる作品は、おそらく全曲とおして演奏想定して作られてはいない。《フーガの技法》を単一主題によるフーガ変奏曲のように扱うのは、そもそも聴き手集中力鑑みて無理があるよう思われる
 作品全体の構成こちらに示す。また、作品の成立関わる問題については最後にこちら簡単に述べるにとどめる。以下、文中略号「Cp.」はContrapunctusを表す。また、テーマ」という場合には第1曲の冒頭提示され、この曲集全体を貫く旋律のことを、「主題」という場合にはフーガ楽式ないし作曲技法上の主要旋律のことを指す。



BWV 1080/ 1-5 / 6-7/ 8 / 9-10, 10a / 11 / 12-13 / 14-17 / 18 / 19 /
BWV668




第1群基本テーマによる単純フーガ(Contrapunctus 1-5
 テーマ基本形そのまま用いたグループ。ただし、付点などリズムわずかな変更はある。全体に古い様式志向する。それは、Cに縦線引いたAlla breve拍子記号にもよく表れている。(この観点から、Cp.5が出版譜においてCになっているのは、おそらくミスだろうと考えられる。)
 Contrapunctus 1はもっともシンプルなフーガで、明確な対位句すら現れず、ほぼ単一主題のまま、きわめて狭い範囲の調のみを通る。声部独立保たれ厳格なモテットのように響く。3声部より少なくなることはない。楽曲中間いっさい休止も完全終止入らないため、厚みと重み持ったまま進む。更には最後に声部停止する休符と、ややトッカータ風のコーダがついて、全体古式ゆかしい対位法作品になっている
 Contrapunctus 2では、テーマ後半付点リズムになる。やはり基本形のみによる単純フーガ第1番くらべれば闊達明るく感じられるが、この付点決し鋭く演奏すべきものではなく、あくまで拍節小節線越えるための推進力生む装置として大切になければならないまた、声部がしばしば増減し、完全終止こそ最後まで現れないが、声部入り明確になることでテクスチュアメリハリ生まれている。
 Contrapunctus 3倒立形、すなわち基本形音程進行ひっくり返した主題で始まる(音程上下逆にすることを「転回」と呼ぶ。こうしてつくられるものを転回主題、また反行主題ともいう)。また、固定した対位句がつねに主題随伴する。(この対位句と主題はどの声部にどちらが現れても、つまり上下関係をかえても音楽成り立つので、こうした対位法技法を「転回対位法」と呼ぶ。)しかし、この曲が独特の迫力を持つのは何といっても、主題以外の声部散りばめられた半音階ゆえのことだろう。この半音階性は基本テーマ転回して現れるc音に起因するニ短調の曲であれば導音としてcisになる筈のものであり、すでに主題で調が一瞬あいまいになる。対位声部では、半音連ねた順次進行和声的跳躍進行組み合わせることで、遠近感演出している。
 Contrapunctus 4倒立形だが、a音、すなわちニ短調ドミナント始まり、調を明確にまとっている。主題提示部とエピソード部の明確な交代中間に起こる2度の完全終止(第53小節、第103小節)とそこから生まれ周期性から、全体図式的論理的な構成をもつ。また、声部独立はあまり厳格ではなく、対位句やエピソード部における――いささか冗長な――摸続進行掛け合いなどでは、ホモフォニック動きが目立つ。あとから書き足されことによるのか、比較あたらし書法自由なフーガとなっている。
 Contrapunctus 5は、倒立形に正立形が応答する反行フーガ」である。また、主題提示半ば応答が始まる「ストレッタ・フーガ」でもある。このストレッタの距離は徐々に詰まってゆき、最後提示(第86小節以降)ではついに倒立形と正立形がぴったり同時に現れる。そして、最終小節付近では6声部となって堂々たる終止にいたる。基本テーマによるグループ最後を飾るにふさわしく古来からのさまざまの技法詰め込んだ曲である。


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第2群:反行ストレッタフーガ(Contrapunctus 6-7
 この組では、新し様式による大規模な反行ストレッタフーガが登場する。Cp.5 をここに含めないのは、Cp.6のタイトルフランス様式の」という言葉にも表されるように、古様式(スティレ・アンティーコ)から離れる方向へむかうからである。
 Contrapunctus 6 では、付点リズム主題正立形に縮小され倒立形が応答し、さらに縮小正立形、縮小倒立形が次々提示される。「フランス様式」とは、主題付点リズムエピソード部分タイ32分音符から作られるより鋭い装飾リズム加え楽曲後半に目立つ16分音符連なったパッセージこうした種々の異なリズム対比緊張を指す。
 Contrapunctus 7縮小主題加え拡大形が用いられる。が、正立倒立拡大縮小といったさまざまな主題形による提示転回可能性それほど徹底して試されていないまた、4回登場する主題拡大形も、コラール編曲定旋律のような重々しさはない。というのも声部減らした複数声部そろって終止したりして重要な主題入り準備するような演出がないからである。全体は常にほぼ4声部保ち、曲の最後では5声部増えすらする堅牢な書法であるが、各声部随所から主題聞こえ響きの上ゆるやかなフーガとなっている。


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第3群:転回対位法による二重フーガ(Contrapunctus 9-10
 ここからは、各曲とまった新し主題基本テーマ組み合わされるようになる1742年頃にまとめられ自筆初期稿では、二重フーガ2曲と三重フーガ2曲がカノンを間においてペア並んでいる。印刷譜がこの論理的な配列乱し三重フーガCp.8とCp.11の間に二重フーガCp.9-10を置いたのは、間違いだったのではなかろうか。(敢えて譜めくり容易にするような体裁にするためだと指摘する学者もいる。)
 Contrapunctus 912度5度)の転回対位法による曲である。ゆるやかに下行と上行を繰り返す冒頭主題が4声部出揃ったところで基本テーマ拡大形が、さながら定旋律のように現れる転回対位法とは、この2つ旋律5度、ないし12度の幅で上下入れ替えて音楽として成り立つような書法のことで、冒頭主題バッハにしては異様に長いのは、この拡大形のテーマ対応するためである。拡大テーマ入りはいずれ場合もよく準備されてはっきり聞き取れるようになっており、全体はそのお陰で劇的なダイナミズム富んでいる。
 Contrapunctus 1010度3度)の転回対位法よる。主題の提示部に続いて基本テーマ倒立形がストレッタで現れ、すぐに2つ主題組み合わされる。前半では声部がよく独立保っているが、中間部以降2つ声部におなじ主題同時に入るようになる。このときの対位法は、片方12度、もう一方8度転回対位法である。曲の後半ではこの手法によって佳境演出されている。
 ところで、初版譜第14曲はこのCp.10の初期稿である。基本テーマ提示部から始まり、新主題登場から基本テーマ組み合わされる。つまり、Cp.10は初期稿第二主題による提示部20小節冒頭書き足したのである。ふたつを見比べてみると、Cp.10では基本テーマ提示部で、急に声部減って違和感生じないよう、アルトにストレッタを用いて段階的に音量減らしその後ふたたび累加していくよう書き直されている。


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第4群:三重フーガ(Contrapunctus 8, 11
 三重フーガペアが印刷譜で離れて配置されたのは、単純にCp.8が3声、Cp.11が4声だったからか知れない。だが、そのせいで2つの曲の密接な関連判りにくくなってしまった。実はこの2曲は、同様の主題を3声と4声にそれぞれ応用する、という試みであり、《フーガの技法》のひとつの頂点をなすグループのである
 Cp.8の冒頭提示される新し主題は、Cp.11の第27小節アルトから現れる主題に、Cp.11の基本テーマ正立形をもとにした冒頭主題はCp.8の第94小節アルト登場するテーマ変形倒立主題呼応する3つ目の主題同音反復を含む8分音符旋律で、Cp.8では第39小節アルト下行形で、Cp.11では第90小節テノールにまず上行形で(のちに転回して下行形でも)現れるこのように3つの主題登場順序こそ違えど、冒頭、第30小節付近、第90小節付近であり、2つの曲が同じ構造持っていることが判るまた、3つの主題同時に現れる瞬間は、どちらの曲でも4分の3ほど進んだ位置(約200小節中の第150小節付近にあたっている。
 この3つの主題自体は、基本テーマ変形によるアーチ主題半音階による主題、そして非常に印象的で必ず聞き取ることができる同音反復主題という、フーガ典型的かつ理想的な要素をすべて備えている。そのため、複雑な組み合わせであっても衒学的にならず、美し響き保っている。


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第5群:鏡像フーガ(Contrapunctus 12-13
 曲全体をすべて転回しても音楽成り立つような技法鏡像対位法と呼ぶ。フーガというよりはカノンに近い。当然ながら、きわめて厳格かつ高度な技術要する1740年代自筆稿では正立形と倒立形が上下並べられており、まさに鏡に映したような見事な造形をみせている。
 Contrapunctus 12古めかしい2分の3拍子記譜され、基本テーマ比較忠実な荘重な主題で始まるが、順次進行による対位句がやがて8分音符主体となってテンポアップし、息つく間もないようなクライマックスのうちに終止する。これほど生き生きしたものが実は鏡像対位法書かれているとは、驚嘆するばかりである。
 Contrapunctus 13はしかし、それにも増して闊達生命力溢れている。三連符運ばれるのは、まさに舞曲ジグであり、鏡像対位法課すさまざまな制限をまるで感じさせない
 なお、初版には第18曲として2台チェンバロのための編曲収載されている。3声のものを2人4手割り当てる際、バッハ声部をひとつ追加したこの声部は転回ができず、正立形と倒立形で異なっている。


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第6群:カノン
 いずれも基本テーマをもとに大胆な変形加えた主題をもつ。自筆初期稿謎カノン体裁でまず単旋律のみ提示し次のページ2段総譜による解決書き込まれていたが、初版では解決のみが示された。
 拡大反行のカノンは、先発する上声旋律反行形を、倍の音価で下声に置いて始まる。全体104小節+終結部5小節からなり、第53小節下声から上下入れ替わる終結部上声冒頭主題どおりなので、下声を取り除けば無限に続けることができる。旋律拡大されているため、後発声部先発声部26小節分のみを使用する主題にはEs音が含まれ全体半音階響きが目立つ強烈な響きになっている。なお、この曲は自筆稿では最後に置かれいたもので、8度10度12度によるほかの3つのカノンにこれを先行させた初版配列は完全に混乱しているといわざるを得ない
 オクターヴカノンフーガのような構成をもっている。アーチ主題がたびたび現れては展開する反復記号以降部分冒頭を完全に再現しており、さらにフェルマータ以降終結部大胆な手の交差でいったん音が鍵盤中央集まった後、ふたたび広がり最後の音で今度低音域の声部交差がおこる。全体生き生きした16分の9拍子運ばれインヴェンションのようによくまとまった曲である。
 3度転回対位法による10度カノンは、78小節+終結部4小節(内カデンツァ2小節からなり、第40小節上下入れ替わるその際、下声に4小節分の自由旋律がはめ込まれている。また、終結部前4小節の上声にも自由旋律現れる3度転回対位法による10度カノン、というの操作次のように行われている。前半先発声部に対して後発声部10度上の関係にある。後半では、もとの先発旋律オクターヴ高くなって上声へ、もとの後発旋律10度下へ移されるその結果オクターヴ模倣になる。この曲はごく普通の音域から始まって中間部両手ともト音譜表音域にまで高まり中間の折り返し点で正常化するが、やがて再び高音へ昇っていく。それに伴って長い音価8分音符ゆったりした調子から、きらびやかな走句の掛け合いへと変化し終結部では3分割から2分割へと拍子唐突な変化見せる。音域テンポ感の変容面白く、また美しい曲である。
 5度転回対位法による12度カノンも、技法に関して10度カノンと同様で、中間の34小節上下入れ替わり後半8度模倣になる。この曲はまた、オクターヴカノンおなじくフーガ風の主題提示と展開があり、明確な二部構成をとる。また、自由旋律もたない完全な無限カノンである。こうした要素をすべて併せ持ってなお美しインヴェンションを書くのは、音楽的にたいへん困難な課題であるが、バッハはここでそれを見事に実現している。


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第7群:未完の4声フーガ
 ここで現れる3つの主題は、《フーガの技法》の基本テーマとは一致しない冒頭第1主題5度跳躍にはわずかにその片鱗感じられるが、ほぼ無関係であるといってよい。第2主題は第114小節現れる8分音符主体オルガン的な語法による旋律第3主題が第193小節登場するB-A-C-H主題である。テーマ出て来ないため、この曲がほんとうに《フーガの技法》に含まれるかどうか疑われたこともあるが、これら3つの主題基本テーマ結合可能である、ということ確かめられた。従って、このフーガが『個人略伝』やフォルケルの『バッハ伝』が伝える「4つ主題含み、のちにはその全4声部が残らず転回されるはずだった最終フーガ」である可能性もある。が、現在残されている部分3つの主題結合充分でなく、三重フーガにすら至っていない。わずかに第2主題提示されたのち、第1主題第2主題結合するのみである。また、第1主題部分続いて第2主題部分が始まるとき、やや唐突な印象否めない第3部分への移行も同様である。こうしたことからおそらく、バッハ3つの違った作品つなげて作ったのだと思われる
 この作品果たしどのような形で完成されうるのだろうか。どう補ってみても、バッハの「当初の計画」を知ることはできないし、おそらくバッハ以上にうまくやることは難しいだろう。しかし演奏に際しては、未完のまま演奏をやめてしまうときわめて中途半端な印象を受ける。ここに何らかの結末演奏者自身がつけることは、決しバッハの意に背くことではない。


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BWV668:コラールファンタジア〈我ら苦難極みにあるとき〉
 この作品バッハ絶筆考えられているのは、《17コラール集》の最後ページコラール〈汝の玉座前に進み出で〉(BWV668a)として同じ旋律のこの曲が25小節半ほど書き残されているからである。ただし、《フーガの技法》に収載された〈我ら苦難極みにあるとき〉は初期稿で、《17コラール集》の楽譜帖に含まれる改訂稿と完全には一致しない。おそらく、《フーガの技法》出版に際して失われた別の資料用いられたのだろう。


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 《フーガの技法》は、バッハ晩年構想した理念的作品集一角をなすものである
 ベルリン国立図書館残される自筆譜1742年作られており、バッハがこれ以前1740年頃から《フーガの技法》に着手した考えられるその後、たびたびの中断があり――フリードリヒ大王訪問し音楽の捧げもの》を仕上げたり、ミツラーの「音楽学交流会」に入会してカノン風変奏曲高き天より」》(BWV 769)を書いたり、旧作オルガン・コラール改訂して所謂シューブラー・コラール集』や《17コラール》をまとめたり、《ロ短調ミサ曲》を完成させたり――、また《フーガの技法》の当初の計画いろいろな変更加えた所為で、とうとうバッハ自身の手出版実現しなかった。
 最大の謎は、バッハ最終的に望んだ《フーガの技法》とは、どのような内容配列によるのか、という点である。1751年6月1日新聞予告され出版譜が、具体的にの手配によるのかは判っていない。が、この初版内容はおそらく、作曲家意図をかなり無視したものとなっている。それはたとえば、Cp.10の初期稿が第14曲として組み込まれていること、Cp.13を単純に2台チェンバロ用に編曲したに過ぎないものが第18曲に入っていること、終曲コラール編曲置かれていること、あるいは未完のままのフーガが第19曲として収載されたこと、また、1742年自筆譜配列とは大幅に異なっていることなどから推察される。バッハはなぜ、自らの名を刻んだフーガ未完のまま放置しただろうか仕上げ前に命数尽きてしまったといえばそれまでだが、そもそもこのフーガ全体出来に不満があったればこそ作曲が捗らなかったのではないかとすれば、これを《フーガの技法》に含めることは、作曲者意図反すかも知れない。さらに奇妙なのは、コラール編曲我ら苦しみ極みにあるとき〉が終曲置かれたことである。フォルケルは『バッハ伝』の中で、死の間際バッハがこのコラール口述筆記させたと伝えている。予定されていた最終フーガ未完となったので、この曲が補完充てられたというのが実情であり、従って、コラール編曲を《フーガの技法》に含めるのが作曲者の意に叶うとは思えない。(更にいうなら、絶筆となったのが果たし本当にこの曲だったのかどうかも、確証得られない。)より本質的な問題として、『個人略伝』とフォルケルの『バッハ伝』によれば計画していながら完成されなかったフーガは2曲あった。「未完フーガ」はそのどちらかであろうが(フォルケルは「未完フーガ」を「3つの主題を持つ」「最後から2番目のフーガ」としている)、残る一方は完全に失われている。バッハ構想した《フーガの技法》は永遠の謎となってしまった。
 筋の通った配列という問題は、未完フーガ補完同じくらい、これまで多く音楽家関心集めてきた。しかし、配列それ自体作品演奏にとっては大きな問題ではない。どのみち全曲とおして演奏することは想定されていないからである。
 楽器編成について、こんにちではほぼ、鍵盤作品として、それもクラヴィーアのために書かれたと考えられている。処々現れる長い保続音確かにオルガンのペダル・ポイントに適しているようにもみえるが、全体クラヴィーアにふさわしい語法に満たされている。また、鍵盤以外の楽器の特徴はほとんど見出せない。なお、現代ピアノ演奏する場合には、特に手の交差に関してチェンバロオルガンほどの効果得られないので、工夫が必要である。



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フーガの技法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/09 06:04 UTC 版)

フーガの技法』(フーガのぎほう、: Die Kunst der Fuge: The Art of Fugueニ短調 BWV1080は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハによる音楽作品。


  1. ^ Golomb (2006), Medium and message.
  2. ^ Rubinoff (2014), Historical fidelity, high fidelity.
  3. ^ 長谷川良夫『対位法』(音楽之友社、1995) pp. 182-183.
  4. ^ a b 『音楽大事典』3 (平凡社、1982) pp. 1573-1574.
  5. ^ 旋律の上下行の転回(反行形)とは異なる。二声の場合は二重対位法、三声の場合は三重対位法、…と呼ばれる[4]が、二重フーガ、三重フーガ、…とは意味が異なる。
  6. ^ 出版譜では、倒立形が先に、正立形が後に掲載されている
  7. ^ a b Schulenberg, David (2006), The Keyboard Music of J.S. Bach (2nd ed.), Routledge, p. 421 
  8. ^ 初期の版では、第233小節の半終止までが印刷されていた[7]
  9. ^ Hewitt, Angela. “Hyperion Records, Bach: The Art of Fugue” (PDF). pp. 13-14. 2022年4月18日閲覧。
  10. ^ フェルッチョ・ブゾーニの『対位法的幻想曲英語版』はこの未完フーガをもとに作曲された。


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