ノロウイルス感染症とは?

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ノロウイルス感染症


ノロウイルスNorovirus)は、電子顕微鏡観察される形態学分類SRSV小型球形ウイルス)、あるいはノーウォーク様ウイルス“Norwalk-like viruses”という属名呼ばれてきたウイルスである。2002年の夏、国際ウイルス命名委員会によってノロウイルスという正式名称決定され、世界統一されて用いられるようになった
ノロウイルスヒトに対して嘔吐下痢などの急性胃腸炎症状起こすが、その多く数日経過自然に回復する季節的には秋口から春先発症者が多くなる冬型胃腸炎食中毒原因ウイルスとして知られている。ヒトへの感染経路は、主に経口感染食品、糞口)である。感染者の糞便吐物およびこれらに直接または間接的汚染された物品類、そして食中毒としての食品類(汚染されたカキあるいはその他の二枚貝類の生、あるいは加熱十分な調理での喫食感染者によって汚染された食品喫食、その他)が感染源代表的なものとしてあげられる。ヒトからヒトへの感染として、ノロウイルス飛沫感染、あるいは比較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もある。この場合空気感染とは、結核麻疹肺ペストのような広範空気感染飛沫核感染)ではないところから、埃とともに周辺散らばるような塵埃感染という語の方が正確ではないか考えている(http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/0702keiro.html )。

疫 学
わが国ノロウイルスに関する疫学データは3つある。

(1)食中毒統計http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/index.html)は、医師届出によって保健所検査し、厚生労働省ウイルス性食中毒として報告され集計されている。我が国における集団食中毒がほぼ捉えられている。平成17年食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は、事件数では、総事件数1,545件のうち274件(17.7%)、患者数では総患者27,019名のうち8,727名(32.3%)となっている。病因物質別にみると、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(645件)に次いで発生件数多く患者数では第1位となっている。表1、2に平成12年から17年ノロウイルスによる集団食中毒集計結果示した。

(2)感染症発生動向調査週報)の中で、冬季感染性胃腸炎関連ウイルスとして集計されている。感染性胃腸炎感染症法の5類感染症定点把握疾患で、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から報告される(http://idsc.nih.go.jp/idwr/index.html)。感染性胃腸炎報告にあたって原因病原体特定求められていないので、すべてが同一病原体よるものとは断定できないが、同一症状呈する疾患動向把握できる。

(3)病原微生物検出情報月報)には、地方衛生研究所検査され、ノロウイルスであることが確認されたものが集計されている(http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html)。散発例およびウイルス起因する集団発生からのノロウイルス検出捉えられている。

これらのデータいずれも日本ではノロウイルス感染症が12月から3月ピークにして全国的流行していることを示している。

表1. ノロウイルスによる食中毒年別報告
表1. ノロウイルスによる食中毒の年別報告



表2. ノロウイルスによる食中毒年別月別報告
表2 ノロウイルスによる食中毒の年別・月別報告

病原体

ノロウイルスサポウイルスSapovirus旧名サッポロウイルス(Sapporo-like viruses : SLV)〕と並ぶカリシ(ラテン語コップを意味する)ウイルス科の属名である。

図1. ノロウイルス電子顕微鏡像(埼玉県衛生研究所篠原先生撮影
直径は約38ナノメータである。

 ウイルス粒子電子顕微鏡見たときに、その表面コップ状の窪んだ構造観察されることがカリシウイルス命名由来となっている。図1にノロウイルス電子顕微鏡像を示した。直径38ナノメータの正二十面体である。プロトタイプ1968年米国オハイオ州ノーウォーク小学校発生した集団胃腸炎から検出され、1972年免疫電子顕微鏡下でその形態明らかになったノーウォークウイルス/68(NV/68)である。以来形態学的にNV/68と区別できない抗原的に異なは、発見された地名を冠して、たとえばスノーマウンテンウイルス、メキシコウイルス、わが国でも音更おとふけ因子、チバウイルスなどと命名されてきた。ノロウイルス培養細胞実験動物への感染いまだに成功ていないウイルスで、ヒト唯一の感受性動物であるといってよい。現在、ノロウイルス属すウイルスはGenogroup (I GI)とGenogroup I(I GII)の2つの遺伝子群に分類され、さらにそれぞれ1417あるいはそれ以上の遺伝子型genotype)に分類される。また、遺伝子型に対応した血清型があると考えられ、極めて多様性を持った集団として存在する。図2に構造蛋白コード領域の上部分250塩基塩基配列基づいて作成した系統樹示した。この領域は、後述するノロウイルス検出RT-PCRプライマーG1SKF & G1SKR, G2SKF & G2SKRによって増幅されるPCR増幅産物の、プライマー部分を除いた領域である。GI, GII含まれる遺伝子型番号欧米研究者らと協議の上Fields VIROLOGYの第4版に従ってナンバリングした。「病原微生物検出情報 Vol.24 No.12, p.5」に掲載済み系統樹番号異な遺伝子型があるが、今後混乱を防ぐ意味でも、今後は本報のナンバリングに従っていただきたい。その方が、海外研究者との情報交換スムーズにいくと思われる

図2. ノロウイルス構造蛋白領域に基づく系統樹

RT-PCRプライマーG1SKF & G1SKR, G2SKF & G2SKRによって増幅される領域のうち、プライマー部分を除いた253塩基DDBJhttp://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)のclustalWを用いてアライメントし、Kimura 2-parameterで遺伝学的距離を算出した。分岐点検定のためブートストラップ検定1000回行い、950以上を統計学的に有意な分岐とした。系統樹はclustalWの値に基づき、Njplot(http://pbil.univlyon1.fr/software/njplot.html)で作成した。遺伝子型別はKatayamaら(Viology 299, p225-239, 2002)の方法基づいて行い遺伝子型番号についてはFields VIROLOGYの第4版に従った。*印は、VLPと免疫血清を用いたEIAで、相互に抗原性異なることを確認済み遺伝子型である(国立感染症研究所名取)。

臨床症状
ノロウイルスボランティアへの投与試験結果から、潜伏期は1~2日であると考えられている。嘔気嘔吐下痢が主症状であるが、腹痛頭痛発熱悪寒筋痛咽頭痛倦怠感などを伴うこともある。特別な治療を必要とせずに軽快するが、乳幼児高齢者およびその他、体力の弱っている者での嘔吐下痢による脱水窒息には注意をする必要があるウイルスは、症状消失した後も3~7日間ほど患者の便中に排出されるため、2次感染注意が必要である。ボランティアバイオプシー由来腸管組織病理組織学的に観察した結果から、ノロウイルスヒト空腸の上細胞感染して繊毛委縮扁平化、さらに剥離脱落を引き起こし下痢を生じると考えられている。しかしながらこのような現象どのようなメカニズムよるものなのか、その詳細はまだ不明である。

病原診断
ノロウイルス検出あくまでも電子顕微鏡による観察基本であるが、対象患者糞便に限られるのが難点である。現在に至ってウイルスの培養出来ず本法ノロウイルス検出基本であるが、この方法で検出するには106個/ml以上のウイルス粒子が必要であるので、感度は低い。また、形態学的にノロウイルス観察できても、ノロウイルスであることを同定できるわけではない
前述した様にノロウイルスは、培養細胞再現性良く増殖させることができない。これがネックとなり、ノロウイルスに関する基礎的研究は遅れていた。しかし、ここ数年20超えるノロウイルスゲノム全塩基配列決定され、ウイルスゲノム詳細解析されたことにより、新たな診断法が開発された。一つは、ゲノムの中で最も高度に保存された領域標的としたリアルタイムRT-PCRシステム構築である(図3)。この方法により、ノロウイルスゲノムを超高感度定量測定することが可能となった。
もう一つは、ウイルス様粒子(VLP)を用いた抗原検出システム構築である。ノロウイルスゲノムの構造蛋白質領域バキュロウイルス組み込み昆虫細胞発現させると、ウイルス粒子酷似したVLPを作出できることが明らかにされた(図4)。VLPは構造ノロウイルスそのものであり、ウイルス粒子同等抗原性有するが、内部ゲノムRNAを持たず、中空感染性はない。現在、互いに抗原性異なると予想されるノロウイルス30種類以上にろうとしているが、その約60%をカバーするVLPの作出成功している。これらのVLPをウサギ免疫して得たポリクローナル抗体用いて構築したEIAキットが、前述抗原検出システムである。このキットにより、特殊な機器を必要としない迅速かつ簡便な抗原検出が可能となった。しかし、ノロウイルス新し遺伝子型が現在もなお発見され続けており、これらに対応するためには、新たなVLPの作出抗体作製継続なければならない

図3. ノロウイルス遺伝子構造増幅のためのプライマー

ノロウイルスはORF1-3の三つオープンリーディングフレームをもつ。RT-PCRによる遺伝子増幅には、ノロウイルスゲノムの中で最も高度に保存されている領域ORF1ORF2境界付近の超高感度定量検出用(リアルタイムPCR)プライマーセットと、ORF2コードされる構造蛋白質領域PCRプライマー使用されている。図にはプライマーの5’末端塩基位置GIはNorwalk/68(M87661)、GIIはLordsdale/93/UK(X86557)の塩基番号示した。

図4. 組換えバキュロウイルス作製したVLPの電子顕微鏡

遺伝子が入っていないので中央黒く見えているものがあるいずれも中空粒子で、ネイティブノ ロウイルスと同じ38ナノメータの直径有する


治療予防
感染者より排泄された糞便および吐物は、感染性のあるものとして注意が必要である。下水より汚水処理場に至ったウイルスの一部浄化処理をかいくぐり、河川排出され、海でカキなどの二枚貝類の中で濃縮される。汚染されたこれらの貝類を生のまま、あるいは十分加熱しないまま食べると、再びウイルス人体戻り感染繰り返す一般に加熱した食品であればウイルスは完全に失活するので問題はないが、サラダな加熱調理しないで食する食材感染源となる。例えば、汚染された貝類調理した手や包丁まな板などから、生食用食材汚染広がる可能性がある。また最近報告では、ノロウイルス感染者を看護世話をする機会に、患者吐物、便などから直接感染するヒトヒト間の感染があることも明らかにされている。
糞口感染するウイルスであるので、食品衛生上の対策としては、食品取り扱いに際して入念手洗いなど衛生管理徹底すること、食品取扱者には啓発教育を十分に行う事が大切である。
身近な感染防止策として手洗い励行は重要である。また吐物など、ウイルスを含む汚染物の処理にも注意が必要である。粒子胃液酸度pH 3)や飲料水含まれる程度の低レベル塩素には抵抗性を示す。また温度に対しては、60程度の熱には抵抗性を示す。したがってウイルス粒子感染性を奪うには、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒するか、85上で少なくとも1分以上加熱す必要があるとされている。
治療としてはノロウイルス増殖抑える薬剤はなく、整腸剤痛み止めなどの対症療法のみである。
ノロウイルスに関するQ&A厚生労働省平成18年12月26日http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html)、国立感染研所感染症情報センターホームページ「ノロウイルス感染症」(http://idsc.nih.go.jp/disease/norovirus/index.html)に詳細が記されている。



感染症法における取り扱い

感染性胃腸炎は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準以下の通りとなっている。

18 感染性胃腸炎

(1) 定義
細菌又はウイルスなどの感染性病原体による嘔吐下痢を主症状とする感染症である。原因ウイルス感染ロタウイルスノロウイルスなど)が多く毎年秋から冬にかけて流行する。また、エンテロウイルスアデノウイルスよるもの細菌性のものもみられる
(2) 臨床特徴
乳幼児好発し、1歳以下の乳児症状進行早い
症状嘔吐下痢であり、種々の程度脱水電解質喪失症状全身症状が加わる。嘔吐又は下痢のみの場合や、嘔吐の後に下痢みられる場合と様々で、症状程度にも個人差がある。3738発熱みられることもある。年長児では吐き気腹痛がしばしばみられる
(3) 届出基準
ア 患者確定例)
指定届出機関管理者は、当該指定届出機関医師が、(2)の臨床特徴有する者を診察した結果症状所見から感染性胃腸炎が疑われ、かつ、(4)により、感染性胃腸炎患者診断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週月曜日届け出なければならない
イ 感染症死亡者の死体
指定届出機関管理者は、当該指定届出機関医師が、(2)の臨床特徴有する死体検案した結果症状所見から、感染性胃腸炎が疑われ、かつ、(4)により、感染性胃腸炎により死亡したと判断した場合には、法第14条第2項の規定による届出を週単位で、翌週月曜日届け出なければならない
(4) 届出のために必要な臨床症状及び要件(2つすべてを満たすもの)
ア 急に発症する腹痛新生児乳児では不明)、嘔吐下痢
イ 他の届出疾患よるものを除く


食品衛生法での取り扱い
食中毒が疑われる場合は、24時間以内最寄り保健所届け出る


国立感染症研究所ウイルス第二部 片山和彦
同感染症情報センター 岡部信彦)






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