ショパン:ノクターン第19番 ホ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ショパン:ノクターン第19番 ホ短調 | Nocturne No.19 Op.72-1 CT126 | 作曲年: 1827年 出版年: 1855年 初版出版地/出版社: Berlin |
作品解説
Nocturne Op.72 No.1
1827年に作曲されたとされているショパン最初のノクターン。Op.72-1の番号は、ショパンの友人であったフォンタナが与えたもので、そのフォンタナによる初版は、どういうわけか、このノクターン、葬送行進曲Op.72-2、3つのエコセーズOp.72-3のセットで出版されたため、これらの全く違うジャンルの作品に対して、同じ作品番号付けがなされることになった。本作が最初に出版されたのは、パリ(J. Meissonier fils)とベルリン(A. M. Schlesinger)においてである。
A-B-A’-B’に1小節の前奏と短い結句が付いた構成を取っており、1回目のAが属調のロ長調に終止しBがロ長調、2回目のA’が並行調のホ長調に終止しB’がホ長調となっている。これを図式化すれば、以下のように図式化される。
図1
曲全体を通して、ホ短調のI度に終止する楽節が一つもなく、ホ長調のI度への終止も、A’の終りまで出てこない。また、Bの部分は、起伏も長さもあるAの部分(Aの部分は前奏を除いて21小節、A’も16小節ある)とは対照的に、平坦な4小節の小楽節が形を変えて2度出てくるのみである(図2)。
図2
A : B : A’ : B’=21 : 8 : 16 : 8
こうした構造的な特徴のために、聴覚上はむしろ、Bをつなぎとして[A-B-A’]の一つの大きな流れが作られ、B’がコーダの役割を担っているように感じられる。曲は、一貫して左手の3連符の伴奏の上で右手がメロディーを歌うが、伴奏は、例えば、第1小節目から現れるパターンの、2拍目、4拍目の真ん中の音の非和声音(C音)、第7~8小節目の左手の、それぞれ2~4拍目の旋律的な動き、Bの部分でのパターンの2拍目、4拍目の順次進行、といった動きが取り込まれることにより、繊細な表情と変化を伴うものになっている。一方、右手の方にも、特に内声において、半音階による声部進行(第12小節)、対位法的な動き(第14、19小節、譜例1)、リズム・モチーフの模倣(第23~24, 29~30小節、譜例2a, 2b)が施され、音楽に変化を与えている。
譜例1 第19~22小節 右手には対位法的な声部書法が見られる
譜例2a 第23~24小節に現れるリズム・モチーフ
譜例2b 第29~30小節 リズム・モチーフが内声で模倣される
対位法的な声部書法やモチーフの巧みな操作は、ショパンのノクターンにあっては、とりわけ1840年代の作品にみられる特徴である。しかるに、本作はショパンがまだ10代後半で学生時代に手がけた初期の作品である。《ピアノ・ソナタ》第1番にもみられるこうしたアカデミックな書法への憧れは、おそらく、作曲法の師であるポーランドの大家エルスネルの感化によるところが大きいと思われる。
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