ネレトヴァ川とは? わかりやすく解説

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ネレトヴァ川

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/03 05:55 UTC 版)

座標: 北緯45度06分28秒 東経17度30分49秒 / 北緯45.10778度 東経17.51361度 / 45.10778; 17.51361

ネレトヴァ川
 
水系 ネレトヴァ川
延長 230 km
平均流量 341 m³/s
流域面積 10,380 km²
水源 ディナル・アルプス(Lebršnik・Zelengora)
水源の標高 1,227 m
河口・合流先 クロアチアプロチェ
流域 ボスニア・ヘルツェゴビナクロアチア
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ネレトヴァ川クロアチア語ボスニア語: Neretva, セルビア語: Неретва,イタリア語: Narenta)はアドリア海東岸では最大の河川である。大規模な高さ15m以上[1]水力発電用のダム4カ所と貯水池により治水されているが、自然美や多様な自然景観で知られている[2]。川の生態系は人口の増加や開発によって傷つけられている。ネレトヴァ川はボスニア・ヘルツェゴビナクロアチアにとってはもっとも価値のある天然資源として豊富な淡水資源となっており[3]、重要なものとして認められている[3][4]。ネレトヴァ川は東のドリナ川と西のウナ川サヴァ川の間に位置し[3]、ネレトヴァ低地が含まれ飲料水の重要な供給源を担っている。水の供給システムでもネレトヴァ川は重要な位置を占め[5][6]ディナル・アルプス山脈地域も含まれとくに多様な生態系や動植物の生息環境、植物相動物相、文化的、歴史的以外にも自然美で重要と見なされている[3][4]

地勢

ネレトヴァ川はボスニア・ヘルツェゴビナとクロアチアを流れるディナル・アルプスの大規模なカルスト河川で東側部分はアドリア盆地に含まれ、アドリア河川流域に属する。総延長は230kmで、そのうち208kmはボスニア・ヘルツェゴビナ領内を流れ残りの22kmはクロアチアのドゥブロヴニク=ネレトヴァ郡を流れる[7]。ネレトヴァ川の流域面積は10,380 km2あり、ボスニア・ヘルツェゴビナ側が10,110 km2、クロアチア側が233 km2をそれぞれ占めている。平均流量はボスニア・ヘルツェゴビナのジトミスリッチ英語版(Žitomislići)で233 m3/s 、クロアチアの河口で341 m3/s である。ネレトヴァ川の流量はクロアチアのメトコヴィチで定期的に統計が取られている[8]

流路

地理的、水門学的にネレトヴァ川は3つの区間に分けられている[9]。源流はディナル・アルプスの山峡でゼレンゴラ山英語版レブルシュニク山英語版の麓でグレデリ下の鞍部にあたる。川の源流は海抜1,227mで、源流からの最初の流域区間はボスニア・ヘルツェゴビナのコニツを流れる。ゴルニャ・ネレトヴァ英語版(上ネレトヴァ)(ボスニア語: Gornja Neretva)を南から北へ流れ、その後ボスニア・ヘルツェゴビナの主要な河川が属するドナウ川水系の河川のように北から北西方向に流れて行く。この区間は1,390 km2の流域をカバーしている。コニツを真っ直ぐ流れて行くと川幅は少し広がり、広い谷間には豊かな農地を与えている。コニツから少し離れると、ヤブラニツァ英語版に入り大きな人造湖であるヤブラニツァ湖英語版ダムがある箇所に入る。

第2の区間はネレトヴァ川とラマ川英語版が合流する地点からでコニツとヤブラニツァの間に位置し、進路を急に南へ取る。ヤブラニツァからネレトヴァ川の流路は大きな峡谷に入りプレニ山英語版チュヴルスニツァ山英語版チャブリャ山英語版など壮大な山の急な傾斜を流れ海抜は800 - 1200mに達している。この傾斜地で力を得た川を利用し、ヤブラニツァとモスタルの間には3つの水力発電用のダムが建設されている。ネレトヴァ川の幅が広がると第2の区間は終わりになり、第3の区間に入って行く。時折、この区間はボスニア・ヘルツェゴビナのカリフォルニアと呼ばれることもあり、実際、この区間はボスニア・ヘルツェゴビナとクロアチアにとっての「ゴールデンステート」であり、ダムによる発電は重要な産業となっている。第3の区間は30kmでネレトヴァの流れは沖積のデルタ地帯を形成しプロチェ付近でアドリア海に注いでいる。

支流・町

ネレトヴァ川の支流にはラキトニツァ川英語版ブナ川英語版やラマ川、クルパ川英語版ドリャンカ川英語版ラドボリャ川英語版トレビジャット川英語版の他にも多くの河川が含まれている。ネレトヴァ川の流域の自治体にウログ英語版コニツチェレビチ、ヤブラニツァ、ドニャ・ドレジュニツァ英語版、モスタル、歴史的な町であるブラガイ英語版ポチテリチャプリナなどのボスニア・ヘルツェゴビナの町と、メトコヴィチオプゼンプロチェなどのクロアチアの町が含まれている。

ゴルニャ・ネレトヴァ

ネレトヴァ川上流は上ネレトヴァを意味するゴルニャ・ネレトヴァと呼ばれネレトヴァ流域には多くの小川や、川近くの3つの大きな氷河湖など幅広く含まれトレスカヴィツァ山やゼレンゴラ山には多くの湖や植物相、動物相などが広がっている。自然的な遺産と同時に文化的な遺産も上ネレトヴァにはあり、ヨーロッパやボスニア・ヘルツェゴビナの貴重な豊かな資産となっている。上ネレトヴァの水は澄んで清らかでClass I purityに分けられており[10]、水温は7〜8℃と夏でも低い。ゼレンゴラ山とレブルシュニク山の麓で増えたネレトヴァの源流はそのまま急流やとなり、岩を削り600〜800mにも達し起伏の多い地形を作っている。

ネレトヴァデルタ

ネレトヴァデルタ

ボスニア・ヘルツェゴビナの町や村を流れて来たネレトヴァ川はクロアチアでアドリア海に流れ込むが、下流域では豊かな湿地帯であるネレトヴァ・デルタ英語版を形成しラムサール条約にもリストされ国際的にも重要である[11][12]。クロアチア下流域の低地ではネレトヴァ川は多数の流路に分かれ約12,000haのデルタ地帯を形成している。クロアチアでは流路の削減と埋め立ての計画があり、現在3つの流れに整備されている。以前は12の流れがあった。かつて点在している湿地、ラグーン、湖は、現在の平野からは消えてしまい、古い地中海湿地の断片のみが残っているのみである。ネレトヴァ川のデルタ地帯を自然公園にすることも提案されている[13]。現在、この地域では様々な生息環境があり、注目される美しい景色が広がっている。デルタ地帯の保存地域箇所は5カ所に上り全部で1,620haを占めている。保存箇所ではヘラサギシロチドリセイタカシギを含む渉禽類アジサシ類カモメなどの鳥類や魚類が保護され景色も守られている[12][13]

ダムの問題

水力発電用のダムは環境と社会的なコストから利益を得ている[14]。ネレトヴァ川の2つの主要な支流はすでに4つの水力発電用のダムが設けられている。最近ではスルプスカ共和国政府がゴルニ・ホリゾンティ計画(Gornji horizonti)と呼ばれる大規模な水力発電計画を完了させた。これはネレトヴァ川流域に直接属する地下水をトレビシュニツァ川英語版にある水力発電プラントに向けさせるもので、この計画にはボスニア・ヘルツェゴビナのNGOやクロアチア政府が反対している。ネレトヴァ川流域に属する水をトレビシュニツァ低地に持って行くことで塩分濃度の上昇や地下水の量の変化、自然公園の泉、ネレトヴァ下流域のクロアチア側の淡水の確保、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチアの農業問題等が議論になっている。議論になっている全ての影響は全部は調整されていない。ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦政府も同様にダムの整備計画を策定し自然公園の制定なども計画しているが、生態系や環境破壊の問題からNGOからは反対の声があがっている[14][15][16]

脚注

  1. ^ Methodology and Technical Notes”. Water Resources eAtlas - Watersheds of the World. IUCN. 2008年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年7月15日閲覧。 “A large dam is defined by the industry as one higher than 15 meters high and a major dam as higher than 150.5 meters”
  2. ^ Transboundary management of the lower Neretva valley”. Ramsar Convention on Wetlands (2002年3月14日). 2014年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月6日閲覧。
  3. ^ a b c d UNDP H2O Knowledge Fair - Bosnia and Herzegovina”. UNDP H2O Knowledge Fair. 2007年11月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月19日閲覧。 “There are about 30 water reservoirs in Bosnia and Herzegovina primarily on the Neretva and Trebisnjica basin,...”
  4. ^ a b Living Neretva”. WWF - World Wide Fund. 2015年12月30日閲覧。
  5. ^ Geoheritage of the Balkan Peninsula”. The Geological Survey of Sweden (SGU). 2009年3月18日閲覧。[リンク切れ]
  6. ^ Database of researchers and research institutions in BiH - Project of identification and characterisation of autochthonous human, animal and plant resource of the Neretva - Resume”. Database of researchers and research institutions in B&H. 2011年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月18日閲覧。
  7. ^ Neretva River Sub-basin”. INWEB Internationally Shared Surface Water Bodies in the Balkan Region. 2009年3月19日閲覧。
  8. ^ Daily hydrological report”. State Hydrometeorological Bureau of the Republic of Croatia. 2010年9月9日閲覧。
  9. ^ Hydrological characteristics of Bosnia and Herzegovina”. Hydro-meteorological institute of Federation of B&H. 2009年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月10日閲覧。
  10. ^ Water Quality Protection Project - Environmental Assessment”. World Bank. 2009年6月18日閲覧。
  11. ^ Living Neretva Project”. WWF - World Wide Fund. 2009年3月10日閲覧。
  12. ^ a b Neretva River Delta | Ramsar Sites Information Service”. rsis.ramsar.org (2020年2月11日). 2023年4月3日閲覧。
  13. ^ a b Nature in Neretva Delta”. neretva.info. 2009年1月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月13日閲覧。
  14. ^ a b Our view of the Hydroelectrical Power Station System "Upper Neretva"”. ZELENI-NERETVA Konjic NGO For Preservation Of The Neretva River And Environment Protection. 2009年6月22日閲覧。
  15. ^ Silenced Rivers: The Ecology and Politics of Large Dams, by Patrick McCully, Zed Books, London, 1996
  16. ^ Arguments Pro&Contra - Why Are We Contra The Hydroelectrical Power Station System "Upper Neretva"”. ZELENI-NERETVA Konjic NGO For Preservation Of The Neretva River And Environment Protection. 2009年6月22日閲覧。[リンク切れ]



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