ダツ目とは? わかりやすく解説

ダツ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/06 07:27 UTC 版)

ダツ目
ダツ科の1種(Xenentodon cancila
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
亜綱 : 新鰭亜綱 Neopterygii
上目 : 棘鰭上目 Acanthopterygii
: ダツ目 Beloniformes
下位分類
本文参照

ダツ目: Beloniformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。2亜目5科36属で構成され、メダカダツなど227種を含む。ダツ亜目にはサンマトビウオサヨリなど、水産資源として重要な魚類が多く所属する。

概要

水面直下で群れをなして泳ぐサヨリ科の1種( Hemiramphus sp.)。ダツ亜目の仲間は表層での遊泳生活に適応している

ダツ目はメダカ亜目とダツ亜目の2亜目で構成される。メダカ亜目はかつてカダヤシ目に含まれていた小型の淡水魚のグループであり、一方のダツ亜目にはトビウオやサンマなど外洋での遊泳生活に適応した海産種が多く含まれ、両グループの生活様式はまったく異なっている。本目に所属する227種の魚類のうち、98種は淡水あるいは汽水域に生息し、残る129種は海水魚である。海産種は世界中の暖かい海に広く分布し、特に熱帯亜熱帯の表層では数の面で支配的である。メダカ発生学遺伝学分野の実験動物として古くから利用され、またサンマ・トビウオなどは重要な水産資源として、日本を含む世界各地で漁獲される。

ダツ目魚類の体は一般に細長く、断面は円筒形か逆三角形であることが多い。すべての種で間舌骨(舌域を構成する骨の一つ)を欠いており、これにより上顎は固定され、ほとんどの種では動かしたり(口先)を突き出したりすることはできない。ダツ亜目の仲間は、成長のいずれかの段階で下顎が上顎より前に出たいわゆる「受け口」となる時期がある。上顎も同様に長く伸びるダツ科、下顎だけ長いままのサヨリ科など、成魚での形態はさまざまである。

は棘条をもたず軟条のみで構成され、腹鰭は腹部に、背鰭と臀鰭は体の後方に位置する。サンマ科の仲間は背鰭・臀鰭と尾鰭の間に小離鰭(しょうりき)と呼ばれる独立の鰭条を複数もつ。尾鰭下葉の主鰭条は上葉よりも多く、トビウオ科とサヨリ科では下葉が特に長く発達する。第2・第3上鰓骨は小さい。

産卵は藻場流れ藻に対して行われ、卵に粘着性の卵糸をもつ種類が多い。卵は一般的に大きく、小型のメダカでも直径1.5mm程度あり、ダツの仲間では3mmに達する。

分類

ダツ目はメダカ亜目・ダツ亜目の2亜目からなり、5科36属227種で構成される[1]トウゴロウイワシ目カダヤシ目との関係が近い。

メダカ亜目

メダカ亜目 Adrianichthyoidei は1科4属28種で構成される。1980年代まではカダヤシグッピーなどと同じカダヤシ目に所属していたグループである。鰓弓の骨格や舌骨装置の構造にダツ目との共通点が指摘され[2]、現在ではダツ目に含められるようになった。この分類体系には異論もあり、メダカ亜目とダツ亜目に共通する分類形質として有効なものは、間舌骨を欠くことただ一点であり、メダカ亜目は旧分類のようにカダヤシ目に含めるべきとする見解もある[3]。ダツ目への所属を否定するこの指摘が仮に正しかった場合でも、独立の「メダカ目」としてダツ目・カダヤシ目の中間に置かれる可能性もある[1]

メダカ科

ミナミメダカ Oryzias latipes (メダカ科)。日本に自然分布するメダカ科魚類であるが、環境悪化に伴い個体数は急速に減少している

メダカ科 Adrianichthyidae は3亜科4属28種からなり、インドから日本オーストラリアと周辺の島嶼地帯に分布する。すべての種類が淡水あるいは汽水域に生息する。日本に生息するのはミナミメダカOryzias latipes)とキタノメダカOryzias sakaizumii)。体部に側線をもたない。

  • メダカ亜科 Oryziinae 1属22種。最大長は9cmほどで、卵生。顎はさほど大きくならない。鰭の大きさや形態に性的二形がみられ、背鰭・臀鰭は雄の方が大きい。
    • メダカ属 Oryzias
  • Adrianichthyinae 亜科 2属5種で、インドネシアスラウェシ島に分布する。突き出した大きな顎と、シャベル状の口が特徴。卵生で、腹鰭を使って抱卵する。最大で20cmにまで成長する。
    • Adrianichthys
    • Xenopoecilus
  • Horaichthyinae 亜科 1属1種で、H. setnai のみが所属する。インド西部の淡水・汽水域から、沿岸部にかけて生息する。体内受精をするグループで、雌は受精卵を産む。体長は3cm程度で、細く透明の体をもつ。背鰭は小さく、尾鰭のすぐ近くにある。臀鰭の基底は長い。雌では右の腹鰭を欠くという特徴がある。主上顎骨を欠く。
    • Horaichthys

ダツ亜目

ダツ亜目 Belonoidei は2上科4科32属199種で構成される。側線は体の下方にあり、胸鰭よりも下、腹部の近くを走行する。成長のいずれかの段階で、下顎が上顎よりも長く伸びる時期がある。ほとんどの種類では、胸鰭が体の高い位置にある。

トビウオ上科

トビウオ上科 Exocoetoidea は2科20属161種を含む。口と歯は小さい。は大きく、側線鱗は通常38-60枚。

トビウオ科
トビウオ科の1種(Cheilopogon melanurus)。本科魚類は大きな胸鰭や腹鰭を利用し、海面上を高速で滑空する

トビウオ科 Exocoetidae は5亜科8属52種で構成され、大西洋インド洋太平洋の熱帯から温帯にかけての表層に広く分布する。

上下の顎は比較的短く、同じ長さであるが、稚魚期には下顎が突出している。サヨリトビウオ亜科の2種を除くすべての種類では胸鰭が大きく発達している。尾鰭は大きく二又に分かれ、下葉は上葉よりも長く発達する。稚魚期に長い口ヒゲをもつ種類が多い。

トビウオの仲間は海面上を滑空する習性をもつことがよく知られ、飛翔に適した体型上の特徴が多数認められる。下側だけ長くなった尾鰭は水面上に飛び出る直前まで海水を捉え、より力強いジャンプを可能にする。飛び出した後は大きな胸鰭を翼状に広げ、グライダーのように高速で滑空する。一部の種類では腹鰭も同様に大きくなっており、胸鰭と合わせ4枚の「翼」を使って飛ぶことが可能となっている。浮き袋も大きく発達し、体を軽くする効果があるとみられている[4]

  • サヨリトビウオ亜科 Oxyporhamphinae 1属2種。本亜科はトビウオ科とサヨリ科の中間的な特徴をもっており、かつてはサヨリ科に含められていた。
    • サヨリトビウオ属 Oxyporhamphus
  • Fodiatorinae 亜科 1属2種。残る3亜科と姉妹群を構成するグループとみなされている。
    • Fodiator
  • ツマリトビウオ亜科 Parexocoetinae 1属3種。本目の魚類としては例外的に、顎を突き出すことができる。
    • ツマリトビウオ属 Parexocoetus
  • イダテントビウオ亜科 Exocoetinae 1属3種。
    • イダテントビウオ属 Exocoetus
  • Cypselurinae 亜科 4属48種。
    • ダルマトビウオ属 Prognichthys
    • ツクシトビウオ属 Cheilopogon
    • ニノジトビウオ属 Hirundichthys
    • ハマトビウオ属 Cypselurus
サヨリ科
サヨリ科の1種(Rhynchorhamphus georgii)。長く突き出た下顎が本科魚類の特徴
セレベス・ハーフビーク Nomorhamphus liemi (サヨリ科)。ハーフビーク(halfbeak)は英語で「半分のくちばし」を意味し、サヨリ類の総称として用いられる
オキザヨリ Tylosurus crocodilus (ダツ科)。ダツ科魚類は両顎がともに長く伸びる。本種は体長1.3mに達する大型種
ダツ科の1種(Belonidae sp.)。掃除魚によるクリーニングを受けている
サンマ Cololabis saira (サンマ科)。日本では秋の味覚として馴染みが深い水産重要種

サヨリ科 Hemiramphidae (英名:Halfbeak)は2亜科12属109種からなり、本目魚類の半数近くが所属する。三大洋の表層を遊泳する海産種と、インドからオーストラリアにかけて分布する淡水魚・汽水魚がともに含まれる。サヨリ科の仲間は草食性で、魚類全体で15科のみが知られるをもたないグループの一つである[1]。近年の分子生物学的解析によれば、本科は側系統群であり、サヨリ亜科はトビウオ科に、コモチサヨリ亜科はダツ科・サンマ科により近縁であることが示唆されている[5]

下顎は上顎よりもかなり長い。胸鰭と腹鰭は短い。尾鰭の形状はさまざまで、下葉が長く伸びる種類もある。

ダツ上科

ダツ上科 Scomberesocoidea は2科12属38種で構成される。鱗は小さく、側線鱗は70から350枚以上。口は大きく、成魚では両顎あるいは上顎が長く伸びる。ダツ科の一部(Belone 属)とサンマ科を姉妹群とみなし、両科を統合してはじめて単系統になるとする見解もある。

ダツ科

ダツ科 Belonidae は10属34種からなり、うち22種は世界の熱帯~温帯海域の表層に、12種は南アメリカパキスタン東南アジアにかけての淡水域に生息する。ダツStrongylura anastomella)など一部の種類は、水面から勢いよく跳ね上がる性質がある。テンジクダツ属の仲間は1mを超え、2mに達する場合もある。

体は細長く、一部の淡水産種を除き両顎とも細長くとがる。口は大きく開き、針のように鋭いが並ぶ。小離鰭はない。孵化した時点では上顎・下顎ともに短く同じ長さであるが、成長につれて下顎が著しく伸びる。ある時期を過ぎると上顎も伸びるようになり、下顎とほぼ同じ長さになる。

  • ダツ属 Strongylura
  • テンジクダツ属 Tylosurus
  • ハマダツ属 Ablennes
  • ヒメダツ属 Platybelone
  • Belone
  • 他5属
サンマ科

サンマ科 Scomberesocidae は2属4種からなり、世界中の熱帯~温帯海域の表層に分布する。ダツ科との関係が深く、本科単独での単系統性には疑念が示されている(ダツ科の項を参照)。サンマ属・Scomberesox 属は各2種を含み、それぞれ1種は比較的大型で北太平洋・北大西洋など広い分布域をもつ一方、残る1種はごく小型で熱帯域に限局する。

口の開き方は比較的小さく、ダツ科魚類と同様に細長い顎をもつもの、下顎がやや突出した短い種などさまざま。歯は小さい。背鰭と臀鰭の後方に4-7本の小離鰭をもつ。各属の小型種は浮き袋をもたず、卵巣は片側にしかない。

  • サンマ属 Cololabis
  • Scomberesox

出典・脚注

  1. ^ a b c Nelson JS (2006). Fishes of the world (4th edn). New York: John Wiley and Sons 
  2. ^ Rosen DE, Parenti LR (1981). “Relationships of Oryzias, and the groups of atherinomorph fishes”. Am Mus Novit 2719: 25. 
  3. ^ Li SZ (2001). “On the position of the suborder Adrianichthyoidei”. Acta Zootaxon Sin 26: 583-587. 
  4. ^ 『新版 魚の分類の図鑑』 pp.94-95
  5. ^ Lovejoy NR, Iranpour M, Collette BB (2004). “Phylogeny and jaw ontogeny of beloniform fishes”. Integr Comp Biol 44: 366-377. 

参考文献

外部リンク


ダツ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/28 19:08 UTC 版)

汽水・淡水魚類レッドリスト (環境省)」の記事における「ダツ目」の解説

汽水淡水魚レッドリスト(ダツ目)和名学名1991年版1999年版2007年備考メダカ科 メダカ北日本集団 Oryzias latipes subsp. 地域個体群 絶滅危惧II絶滅危惧II1991年版では「沖縄メダカ個体群」で、1999年版では種「メダカ」で評価したメダカ南日本集団 Oryzias latipes latipes 地域個体群 絶滅危惧II絶滅危惧II1991年版では「沖縄メダカ個体群」で、1999年版では種「メダカ」で評価したサヨリ科 コモチサヨリ Zenarchopterus dunckeri - - 準絶滅危惧 クルメサヨリ Hyporhamphus intermedius - - 準絶滅危惧

※この「ダツ目」の解説は、「汽水・淡水魚類レッドリスト (環境省)」の解説の一部です。
「ダツ目」を含む「汽水・淡水魚類レッドリスト (環境省)」の記事については、「汽水・淡水魚類レッドリスト (環境省)」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ダツ目」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ダツ目」の関連用語

ダツ目のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ダツ目のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのダツ目 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの汽水・淡水魚類レッドリスト (環境省) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS