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カルト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2012/01/18 09:51 UTC 版)
カルト(Cult)は、「崇拝」、「礼拝」を意味するラテン語 Cultus [1]から派生した言葉で、元来は「儀礼・祭祀」などの宗教的活動を意味しており否定的・批判的なニュアンスは無かった。しかし現在では、反社会的な宗教団体を指す世俗的な異常めいたイメージがほぼ定着している[2]。ただし、反社会的な問題のない団体に独自の主観によりカルトのレッテルを貼る等の混乱が見られたり、派生的な用法が多岐にわたって使用されはじめており、境界線があいまいな言葉である。
目次 |
概要
1990年代アメリカにおいて、反社会的な宗教団体を指す言葉として使われるようになった(この場合、一般の宗教と区別する意味で「破壊的カルト」とも呼ぶ([3]、p131))。フランス語においては「カルト(Culte)」は宗教の宗旨別を意味し、ヨーロッパにおいては一般的な宗教から派生したカルト団体を「セクト」と呼ぶ[4][5]。破壊的カルトは、宗教カルト、政治カルト、自己啓発カルト(自己啓発セミナー)、商業カルトなどに分類される。
派生的な用法(カルト・ムービーなどの肯定的な用法)は#派生的な意味でのカルトの節を参照。
定義・特徴
社会学上におけるカルトの定義
19世紀から20世紀の変わり目の頃、ドイツのマックス・ヴェーバーやエルンスト・トレルチなどの社会学者、神学者による説では、キリスト教団体を「教会」(各国の主要な教団)と「セクト」に分ける類型法があった。セクトは既存の教会を批判し、宗教的により正しい生き方を目指して分派した小規模団体であると定義した。このような教会とセクトの分類は、キリスト教世界内の団体間の緊張関係に着目している。
なお、1950年にアメリカの社会学者のハワード・S・ベッカー(Howard Saul Becker) は、非キリスト教的なスタイルを持つ新興団体を新たな類型として含め、これを「カルト」と定義した。ベッカーの言うカルトは、心霊術、占星術などの信者集団で、小規模かつ緩やかな組織構成という特徴を持つものである。
フランス国民議会「アラン・ジュスト報告書」によるセクト(カルト)の定義
「セクト」、「政府の文書によってカルトと分類された団体一覧#フランス」、および「#ヨーロッパ」も参照
ヨーロッパにおいては「カルト」という言葉は用いられず、社会的に警戒を要する団体を、「セクト」と呼ぶ[6]。
1995年12月、フランス下院で採択された報告書『フランスにおけるセクト』は「通常の宗教か、セクト(カルト)か」を判定する国際的な指針の一つとされている。この報告書は、調査委員会の委員長の名前を取って『アラン・ジュスト報告書』ともよばれている。
この中で、セクトの本質を「新しい形の全体主義」と定義した上で、以下のように「セクト構成要件の10項目」を列挙している。
以上の項目のいずれかにあてはまる団体をセクトとみなしている[7]
フランスのセクト対策の特徴
- 教祖が女性信者と性関係を持ったり、信者の結婚相手を指名することがある。また、性的儀式が信者勧誘の際の売り物となっている団体もある[3]。
- フランスのセクト対策で重要視されたのは、セクトが西欧的人権の侵害をし犯罪誘因性の温床となっていないかである。
- その団体が西欧と異質な価値観を持つ異文化にすぎないのか、逆に適度な国家の介入が必要なカルトであるかの線引きが特に重要視された。
- 2004年頃には、フランスはセクトに対する有効なネットワークを有することとなり、その対策も本格化した。
- 具体的な対策内容は、各省庁における専門部署の設置、警察の捜査、司法における判例の蓄積、人権侵害や犯罪がなされてないのかの追跡調査、民間団体からの情報収集等である。
カルトの特徴
マイクル・シャーマーによれば、一般的に以下のように性格づけられる。
- 指導者に対する崇拝
- 聖人、あるいは神格に向けられるものとさして変わらない賛美。
- 指導者の無謬(むびゅう)性
- 指導者は絶対に間違いを犯さないという確信。
- 指導者の知識の広さ
- 哲学的な事柄から日常の些細なことまで、指導者の信条や口にすることはなんでも無条件に受け入れる。
- 説得のテクニック
- 新たな信徒を獲得し、現状の信仰心を補強するために、寛大なものから威圧的なものまで手段はさまざま。
- 秘密の計画
- 信仰の真の目的と計画が曖昧としている、あるいは新規入信者や一般大衆にはそれらが明確に提示されていない。
- 欺瞞
- 入信者や信徒は、その頂点に立つ指導者や集団の中枢部に関してすべてを知らされるわけではなく、また大きな混乱を招くような不備や厄介事に発展しそうな事件、あるいは状況は隠蔽されている。
- 金融面および性的な利用
- 入信者や信徒は、その金銭およびそのほかの資産を差し出すよう説得され、指導者には一人かそれ以上の信徒との性的関係が許されている。
- 絶対的な真理
- さまざまなテーマにおいて、指導者、あるいは集団が見いだした究極の知識に対する盲信。
- 絶対的な道徳観
- 指導者、あるいは集団が確立した、組織の内外を問わず等しくあてはまる、思考および行動に関する善悪の基準への盲信。その道徳の基準にきちんと従えば、組織の一員としていられるが、そうでない者は破門されるか罰せられる。
世界のカルト問題
米国
1978年、米国から南米のガイアナに移動した人民寺院信者の900人に及ぶ集団自殺は、米国で社会問題化し、社会的に危険とみなされる宗教団体を指して「カルト」と呼ぶようになる。これを機に 1979年、連邦議会を初め、各州が公聴会を開催した[6]。
市民の間でも反カルト運動が高まり、同年 "AFF"(America family Foundation「アメリカ家族財団」)(現:"ICSA" international Cultic Studies Association 「国際カルト研究会」)が設立され、カルト問題を社会に訴えると共にカウンセリングを確立・普及させた。
臨床心理学、社会心理学、社会学、神学者達が、新たなカルトの理論的な定義付けを試みている。カルトを社会的問題とする陣営の統一見解としては1985年にまとめられた "Cultism:A conference for scholars and policy makers" という文書がある。
米国での統一教会の元信者2名が教団の宗教であることを隠した詐欺的勧誘によって、精神的苦痛を受けたことなどを理由として統一教会に損害賠償を求めた裁判で1988年カリフォルニア州最高裁判所は原告の訴えを却下した1、2審判決を破棄し、「(“聖なる詐欺”と称して「聖なる目的のためには人をだましてもよい」とする教団の)詐欺的勧誘が宗教的信念に基くものであっても、社会の保護のための規制に服する」として裁判のやり直しを命じた(結果的には和解となった)。宗教的教義に基く行為が公共の秩序や法規範と対立する場合、どちらを優先させるかは時代と共に変遷しているが、この判例のように公共の秩序や法規範を優先させた判例も1800年代からこれまでいくつか出ている[6]。
ヨーロッパ
詳細は「セクト」を参照
1984年5月22日、欧州評議会(EC議会)において宗教団体による法の侵害に対する共同の対応についての決議が採択された。ECの各組織が情報交換することを促し、各組織の調査・評価のための13の基準を定めた[8]。
特にフランスではセクト対策が盛んであり、各国で話題となった。フランスでは1995年にカルト対策の引き金となる議会報告書「フランスにおけるセクト」(「フランスのセクト」、「フランスにおけるセクト教団」、「1995年度報告書」とも)が提出された。この報告書はフランス国内で活動中のセクト的傾向の見られる団体の紹介と、それによって引き起こされる社会問題への対処を提案したものだった。フランスではこの報告書等に基づきセクト対策室が設置され、継続的なセクト対策が行われることとなる。セクト対策の課程で提案され実行に移されたのは、脱税対策、人権侵害調査、子供への洗脳的教育が行われてないかの監視、人権の侵害を行う団体への対処、異文化とカルトの線引きをどうするか、異文化の受け入れ、裁判実績の積み重ね、各県(海外県を含む)における専門部署の設置などである。
特にフランス政府のセクト対策で問題となったのは西欧的人権だけが人類の価値観でない以上カルトと多文化の線引きをどうするかと、旧来のライシテとの調和であった。この問題は根幹的なものであり、政府のみならずフランス国内でも話題となり膨大な議論が行われた。またフランスのセクト対策は、宗教に対し踏み込んだものであったため、ヨーロッパ各国から注目された。
2002年からはセクトによる反社会的な行動に対する予防、抑止、対処のために「MIVILUDES」(「セクト的逸脱対策関係省庁本部」、朝日新聞の記事や一般の翻訳では「省庁間セクト対策室」)という首相所轄の機関を中心に大々的にセクト対策を行って来た。
フランス政府はセクトと宗教の線引きという極めて難しい問題に挑戦した。何が宗教で何がセクトか、社会現象や団体の行動も異文化と見るべきか、それとも問題とすべき事体なのかなど極めて難しい問題である。フランスはこの種の宗教問題を避けるために犯罪や洗脳、社会問題を引き起こしている団体に対処するというスタンスで、問題点の多い団体を洗い出した。選択されたのは人権や法は宗教に優先するという価値基準である。その結果として宗教で無い団体などもセクトに含まれている。セクト対策も単なる分類やリストアップではなく行政レベルでの具体的な政策であった、その内容は「実際の問題行動に対する情報収集や行政指導、各地域への専門部署の設置」、「洗脳などを含めて教育方法に問題のあると見られる団体の子供へのモニタリング」、各種法整備や制度の整備、不法医療行為の取り締まり、「被害者救済のための判例の積み重ね」などの具体的な活動である。
ヨーロッパ全体でもカルト問題は難しく微妙な問題を含んでおり、信教の自由との兼ね合いをとることが重視されている。宗教問題に関しヨーロッパでは国内での裁判に不服がある場合欧州人権裁判所に持ち込むことが出来る。そこでの判決は国内の裁判所より上位にあるとされ、判決は欧州各国内で参考とされるべき判例となる。1990年代のフランス司法は人権裁判所の判断に添った形での判決を出す方向へシフトした。特に成人の信教の自由を保護することを重視し、国家や司法が宗教に介入するにはそれ相応の根拠がある場合に限るとされている。介入の根拠とできるのは、社会治安上の問題や犯罪、育児に関する責任や教育上の問題などである。
ヨーロッパのカルト対策の共通点は、「セクト」の明らかな問題行動や犯罪が、信教の自由の名の元に見過ごされている点を改善することである[8]。ヨーロッパでは「セクト」を宗教として見るのではなく、実際にどのような活動をし、どのような問題がおきているのかが重視されている。国の関係機関や警察、司法、民間団体が広範に連携して情報収集をし、個々の団体の問題行動に対処するという方針を取っている。国家機関やNGOの活動は国家の枠を超えた広範な活動を呈している。実際に、労働法や脱税、完全な営利目的の団体や詐欺、子供への教育等の観点からの対策が提起され実行に移された。またヨーロッパにおいては信者の社会復帰や、教育から隔離された「セクト」の子供たちの教育問題に力が注がれている。対して日本ではカルト団体の信者が、教団を離れても支援がないために社会復帰できず教団に戻ったり、子供が教団内で軟禁状態になり、教育から隔離させられているのに放置されている等の問題がある[8]
セクト対策については法律も整備されておりwebサイト「Legifrance」で調べることができる。
出典 新聞記事一覧[9]。
アジア
中国の法輪功が中国当局によって「カルト」に指定されている。大韓民国(韓国)では後述の世界基督教統一神霊協会(現・世界平和統一家庭連合)が大きな勢力を保持している。
日本
日本における、「カルト」の基準は、その集団が個人の自由と尊厳を侵害し、社会的に重大な弊害をもたらしているかどうかで判断されるべきであり、その集団の教義や儀礼が奇異に見えるかどうかであってはならない[10]、とされている。
しかし、実際は、個々人の基準によって誤った意味で用いられており、本来の定義で用いられているとは限らない。
日本人は一般に、特定の既成宗教を主体的に信じているわけではなく、むしろ自分は無宗教であると思っている人が多いため、宗教とは直接的な体験の事柄としてではなく、主にマスコミを介した間接的な情報によって構成されたイメージとして、理解している[11]。マスコミの提供する情報は、それが視聴率を獲得するためという性格からして、当然、既成宗教の側から見ても「異常」としか思われないものが多く、日本人の宗教像全般に多大なマイナス・イメージを生じている[11]。そのため、日本では、「カルト」の用法がマスコミのセンセーショナルなイメージとともに広まった経緯がある。現在においても、安易にカルトというレッテルを貼り、おもしろおかしく報道する風潮が残っており、問題視されている。今では、「カルト」という単語は学術用語としてではなく、通俗用語として用いられる[10]。
1992年の「統一教会(世界基督教統一神霊協会)」の合同結婚式に参加した山崎浩子が、翌1993年の脱会記者会見の際に、「マインド・コントロール」されていました」と発言したことと、同年、同じ統一教会の元信者で社会心理学のスティーヴン・ハッサンが書いた『マインド・コントロールの恐怖』という著作がベストセラーになったことでマインド・コントロールという言葉が社会に知られるようになった。同時に、そのようなマインド・コントロールを行なうような宗教団体に対し、「カルト」という言葉が使われるようになった[12]。
特に一連のオウム真理教事件は、思想・信教の自由に対する配慮から行政が及び腰になりオウム真理教への捜査が遅れ、テロを防げずに被害を拡大してしまったという社会的非難が大きくなったこともあり、それまで「宗教の自由」「信教の自由」という名の下に見過ごされてきた宗教団体による人権侵害等を見つめ直す土壌が作られた。この事件をきっかけとして、マスコミにより、「カルト」の用語が急速に広まった[10]。
オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった後、1995年の11月に精神科医で東邦大学助教授の高橋紳吾が日本にもアメリカのCAN(カルト警戒網)のような組織が必要だとして「日本脱カルト協会」を設立した[12]。
マスメディアなどで宗教団体に対し、「カルト」という言葉を用いるようになると、「カルト」と呼ばれた団体が相手を名誉毀損で訴える訴訟が起こされた。「ライフスペース」がフジテレビ及び、その番組のコメンテーター、ウェブサイトの主催者らを訴えた事例では、2000年3月24日の東京地裁が「カルトという言葉は文脈によっては社会的評価を低下させる場合もあるものの、直ちに他人の評価を低下させるものではるとまではいえない」旨の判断を下し、請求を棄却した([3]、p129-p130)[8]。この例を見ても明らかなとおり、裁判所所見は、学術的な意味で捉えているが、一般的な視聴者は通俗的な意味で捉えるというイメージのギャップが起きている。
1999年3月、日弁連消費者問題対策委員会は、宗教的活動にかかわる人権侵害についての判断基準(1.献金等勧誘活動、2.信者の勧誘、3.信者及び職員の処遇、4.未成年者、子供への処遇)を示した「反社会的な宗教活動にかかわる消費者被害等の救済の指針」と題する意見書を発表し、「カルト」の一定の基準として用いられるようになった。しかし、「日本宗教連盟」を初めとする宗教界からは強い反発が起こった[8]。
2000年9月、岡山高裁においては宗教団体(統一教会)による勧誘・教化行為の違法性を認めた全国初の判決(判例時報1755号 P93)最高裁平成13年2月9日決定)が出た[2]。
このような事件が相次いだこともあり、今では、破壊的な行動が見られたり、個人の自由や尊厳を侵害し社会的に重大な弊害をもたらす[10]団体を「カルト」と呼ぶことが定着してきた。
なお、カルト問題に長年関わってきた旧約聖書学者の浅見定雄(東北学院大学名誉教授)は、カルト問題は「宗教問題」ではなく「社会問題」だとしている。
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- 1 カルトの概要
- 2 カルト団体と社会問題
- 3 派生的な意味でのカルト
- 4 関連項目
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