エルゴード理論
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エルゴード理論(エルゴードりろん、英語: ergodic theory)は、ある力学系がエルゴード的(ある物理量に対して、長時間平均とある不変測度による位相平均が等しい)であることを示す、すなわちエルゴード仮説の立証を目的とする理論。この仮説は、SinaiらのDynamical billiardsの例などで正しいという証明が与えられているが、統計力学の基礎とは無関係である。また、物理学でのエルゴード性を抽象化した、数学における保測変換の理論をそう呼ぶこともある。
- ^ 田崎晴明 (2009 年 9 月 11 日). “統計力学 I, II(培風館、新物理学シリーズ)”. www.gakushuin.ac.jp. 学習院大学理学部物理学教室. 2013年10月6日閲覧。 “「統計力学の基盤はマクロな経験事実である」という立場を貫き、できるかぎり見通しのよいストーリーを提示した(既習者や専門家のために、エルゴード仮説が統計力学の基礎としては的を外している理由も解説した)。”
- 1 エルゴード理論とは
- 2 エルゴード理論の概要
- 3 保測変換
- 4 関連項目
エルゴード理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/13 01:23 UTC 版)
エルゴード理論の分野では、カオス力学系の長期的振る舞いを研究する。エルゴード理論が有効な原型的な場合というのは、熱力学における系である。この系の微視的な状態は(微粒子の間の個々の衝突の集まりとしては理解できないという意味で)極めて複雑であるにも拘らず、十分長期間にわたるその平均的振る舞いは素直であり、熱力学の法則が主張するのはこのような平均的挙動である。特に、熱力学の第0法則は「十分長い時間スケールを経れば平衡状態にある熱力学系の、その機能的に独立な測度は、温度の形でのその全エネルギーのみである」などと定式化できる。 エルゴート力学系は、(ハミルトニアンで測られる)エネルギーを除けば、相空間上の機能的に独立な保存量を持たないような系である。詳しく述べれば、エネルギー E を固定して、ΩE をエネルギーが E となる状態すべてからなる相空間の部分集合(エネルギー面)とし、Tt で相空間上の発展演算子を表せば、力学系がエルゴードとなるのは、ΩE 上の定数でない連続関数で、ΩE の任意の w と任意の時間 t において f ( T t w ) = f ( w ) {\displaystyle f(T_{t}w)=f(w)} を満たすものがない場合に限る。リウヴィルの定理によれば、エネルギー面上の測度 μ で時間並進不変なものが存在する。結果として時間並進は、エネルギー面 ΩE 上の自乗可積分関数に内積を ⟨ f , g ⟩ L 2 ( Ω E , μ ) = ∫ E f g ¯ d μ {\displaystyle \langle f,g\rangle _{L^{2}(\Omega _{E},\mu )}=\int _{E}f{\bar {g}}\,d\mu } で入れたヒルベルト空間 L2(ΩE,μ) のユニタリ変換になる。 フォンノイマンの平均エルゴード定理の主張は次のようなものである。 Ut がヒルベルト空間 H 上のユニタリ作用素からなる(強連続)一径数半群で、P を Ut の同時不動点全体の成す集合{x∈H | Utx = x for all t > 0} の上への直交射影とすると P x = lim T → ∞ 1 T ∫ 0 T U t x d t {\displaystyle Px=\lim _{T\to \infty }{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}U_{t}x\,dt} が成り立つ。 エルゴード系では、時間発展の固定集合は定数関数のみから成るので、先のエルゴード定理から任意の f ∈ L2(ΩE,μ) に対し L 2 - lim T → ∞ 1 T ∫ 0 T f ( T t w ) d t = ∫ Ω E f ( y ) d μ ( y ) {\displaystyle {\underset {T\to \infty }{L^{2}\!{\text{-}}\!\lim {}}}{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}f(T_{t}w)\,dt=\int _{\Omega _{E}}f(y)\,d\mu (y)} となることが従う。つまり、観測可能な f の長期平均は、そのエネルギー面に亘ってとった期待値に等しい。
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エルゴード理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/01 00:00 UTC 版)
詳細は「エルゴード理論」を参照 充分多数の N ≫ 1 個の粒子から成る古典的な系での任意の物理量 A の時間平均値 A は A ¯ = lim T → ∞ 1 T ∫ 0 T A ( { p i } , { q i } ) d t {\displaystyle {\bar {A}}=\lim _{T\to \infty }{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}A(\{p_{i}\},\{q_{i}\})\mathrm {d} t} と与えられる。{qi}i = 1,..., 3N, {pi}i = 1,..., 3N は系の微視的状態を指定する正準変数である。系が熱力学的平衡状態に達するならばこの値は収束する。このとき長時間平均 A は熱力学に現れる巨視的な物理量 A に一致しなければならない。系の微視的状態の(任意の)分布 ρ({qi}, {pi}, N) はリウヴィルの定理により時間に関して不変である。 d ρ d t = 0 {\displaystyle {\frac {\mathrm {d} \rho }{\mathrm {d} t}}=0} このことから、時間 t に依存しない平衡状態において、{qi}, {pi} で指定される微視的状態がある確率 dP を持つ確率集団(アンサンブル)を考えると物理量 A の集団平均 ⟨A⟩ は ⟨ A ⟩ = ∫ A ( { p i } , { q i } ) d P = ∫ A ( { p i } , { q i } ) ρ ( { p i } , { q i } ) d Γ ∫ ρ ( { p i } , { q i } ) d Γ {\displaystyle \left\langle A\right\rangle =\int {}A(\{p_{i}\},\{q_{i}\})\mathrm {d} P={\frac {\int {}A(\{p_{i}\},\{q_{i}\})\rho {}(\{p_{i}\},\{q_{i}\})\mathrm {d} \Gamma }{\int {}\rho {}(\{p_{i}\},\{q_{i}\})\mathrm {d} \Gamma }}} で与えられる。この集団平均 ⟨A⟩と時間平均 A が等しいと仮定することを統計力学の原理とする仮説をエルゴード仮説と呼ぶ。ただし、エルゴード仮説は統計力学の基礎付けと無関係という主張も専門家によってなされている。
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エルゴード理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/16 07:34 UTC 版)
「リウヴィルの定理 (物理学)」の記事における「エルゴード理論」の解説
エルゴード理論と力学系では、与えられた物理的な考え方に動機を持っていたが、リウヴィルの定理としても対応する結果がある。ハミルトン力学では、相空間は自然に滑らかな測度(局所的には、6n-次元ルベーグ測度)を持つ微分可能多様体である。エルゴード理論の定理によると、この滑らかな測度はハミルトンフローの下に不変である。さらに一般的には、滑らかな測度がフローの下に不変である必要充分条件を記述することができるので、ハミルトニアンの場合は一般的結果の系となる。
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