蛙
★1.蛙婿。
『親指姫』(アンデルセン) 親指姫は年寄りのヒキガエルにさらわれ、その息子の花嫁にされそうになる。姫は川の睡蓮の葉の上に置かれるが、魚が茎を噛み切ってくれたので、ヒキガエルのもとを逃れることができた。
*蛙婿の正体は人間の王子だった→〔変身〕2aの『蛙の王様』(グリム)KHM1。
★2a.蛙女房。
『蛙の女房』(昔話) 親もとの法事に行く妻のあとを、夫がつける。山中の池に妻は飛びこみ、たくさんの蛙が読経するかのごとく鳴くので、夫は「妻の正体は蛙だ」と気づく。石を池に投げると蛙たちは逃げる。翌日帰宅した妻は、「法事の最中に屋根から石が落ちて来て大変だった」と語る。
『忠五郎のはなし』(小泉八雲『骨董』) 足軽の忠五郎が、ある晩、川辺に立つ女から「夫婦になってほしい」と請われ、水中の屋敷へ連れて行かれる。女は「私たちの結婚を誰かにもらしたら、お別れです」と口止めする。忠五郎は毎夜女のもとへ通うが、朋輩に問われて女との逢瀬を打ち明けてしまい、翌日死ぬ。女の正体は、大きな蝦蟇だった→〔性交と死〕1。
『聊斎志異』巻11-417「青蛙神」 薛崑生は頭も良く容姿も美しかったので、蛙の神が愛娘の「十娘(じゅうじょう)」を彼の妻として与えた。蛙族と人間とでは生活習慣が異なり、夫婦は喧嘩と仲直りを繰り返した。ある時、薛崑生がふざけて蛇を見せたため、十娘は怒って実家へ帰ってしまう。薛崑生は後悔し、十娘が他家へ嫁ぐと聞いて、悲嘆のあげく病気になる。十娘は薛崑生のもとへ帰って来て、以後は夫婦は仲むつまじく、十娘は男児2人を一挙に産んだ。彼らの子孫は繁栄し、「薛蛙子(せつあし)の家」と呼ばれた。
*蛙女房に水を見せてはいけない→〔禁忌〕6の『マハーバーラタ』第3巻「森の巻」。
『蛙の王女』(ロシアの昔話) イワン王子は蛙を妻とした。しかし蛙は、本当は人間の娘「賢女ワシリーサ」だった。父親よりも賢かったので、父親が怒り、3年の間、彼女に蛙の姿でいるよう命じたのである。それを知らぬイワン王子は、3年たたないうちに、蛙の皮を見つけて燃やしてしまう。ワシリーサは嘆き、「もう少し待てば、私は永久にあなたのものになれたのに」と言って、地の果ての国へ去る→〔糸〕2c。
★3.蛙と月。
『捜神記』巻14-12(通巻351話) ゲイが西王母から不死の薬をもらったが、妻の嫦娥がそれを盗んで月へ逃げた。嫦娥は月でヒキガエルになった〔*中国では、ヒキガエルを月の精と考える〕。
月に貼り付いた蛙の話(北アメリカ・アラパホ族の神話) 太陽と月は兄弟だった。兄の太陽はヒキガエルを妻とし、弟の月は人間の女を妻とした。結婚後、太陽は美しい義妹に魅せられ、月は醜い義姉に悪態をついた。人間の女はかわいい赤ん坊を産み、皆が喜んだが、ヒキガエルはすねてそっぽを向いた。月が軽蔑の目でヒキガエルを見ると、ヒキガエルは「馬鹿にするのもいいかげんにして」と叫んで月の胸に飛びつき、そのまま今でも貼り付いている。
月の中のかえる(カナダ・インディアンの神話) 昔、月は太陽と同じくらい明るく輝いていた。月が星たちを招いて大宴会をした時、月の妹である蛙が、「お客が多すぎて、私の居場所がない」と文句を言った。兄の月は、「お前なんか、どこか適当な所にぶら下がっていればいい」と笑う。蛙は怒り、「ほんとに、どこにいてもいいのね?」と言って、兄の顔に貼り付いた。以来、月の顔には、蛙が黒い影のようにずっとしがみついており、月は明るさを失ってしまった。
『赤蛙』(島木健作) 修善寺を訪れた「私」は、桂川で赤蛙を見た。赤蛙は川の中州から対岸へ渡ろうとして、何度も急流に流され、ついに渦巻に呑みこまれた。赤蛙の行動は、本能的な生の衝動以上の、明確な目的意志を持っているように見えた。「私」は自然の神秘を感じ、俗悪な社会と人生をしばらく忘れることができた。
『小野道風青柳硯』2段目 雨が小止みになり、小野道風が傘を片手に柳のかげにたたずむと、1匹の蛙が柳の葉の露を「虫か」と思い跳び上がる。失敗を何度も繰り返すうちに、ついに蛙は枝に跳びつく。これを見ていた道風は、「及ばぬ芸も、度重なる念力かたまる時は、ついに成らずということなし」と悟る。
『蛙』(ゲーザ) 「毛の生えた蛙が夜中に家に現れたら、誰かが死ぬ」と、「私」たちの田舎では信じられていた。ある夜、「私」は台所でその蛙を見た。「私」は斧をふるって、蛙を切り刻んだ。しかし翌朝見ると、蛙の死体は消えており、台所も汚れておらず、昨夜の殺戮の痕跡は何もない。「私」は夢を見たのだろうか? その日から2週間後、妻は死の床に横たわっていた。
*毛の生えた蛸を家で飼って、平和な暮らしと長寿を得る→〔蛸〕7の『海』(星新一『つねならぬ話』)。
*双頭の蛇を見ると、死ぬ→〔蛇〕9aの『太平広記』巻117所引『賈子』。
*山の主の蛙に遇ったために、死ぬ→〔地震〕8bの蛙(高木敏雄『日本伝説集』第11)。
★5a.蛙の形をした霊・魂。
『雑談集』(無住)巻6-6「霊之事」 法師が、地頭のために財産を騙し取られたまま、病死する。法師の霊は地頭の妻に取りつき、「家族を皆殺しにする」と言うので、地頭は詫びる。霊は「鎌倉で、浜の大鳥居に打ちこんだ釘と石を見せよう」と言い、妻は3~4寸の釘と大石を、口から吐き出す。また、霊は「我が姿も見せよう」と言い、妻は蛙を吐き出す。
『ヨハネの黙示録』第16章 世界の終末の時、龍の口・獣の口・偽預言者の口から、蛙のような形の3つの悪霊が出る。悪霊たちは、ハルマゲドンと呼ばれる場所に全世界の王たちを集め、神との戦いの日に備える。
*ひきがえるのように見える魂→〔耳〕2の『太平広記』巻327所引『述異記』。
★5b.蛙の形をした子供。
『三国遺事』巻1「紀異」第1・東扶余 東扶余国の夫婁(ブル)王が山川を祀り、「子供が授かるように」と祈った。帰途、鯤淵(コンヨン)まで来た時、王の乗る馬が、大きな石にむかって涙を流した。石をひっくり返すと、金色の蛙の形をした子供がいる。王は「天の授けである」と喜び、その子供を「金蛙(キムワア)」と名づけて育てた。「金蛙」は長じて太子となり、王となった。
*蛙の形をした化け物→〔瓶(びん)〕1の『ガラス瓶(びん)の中の化け物』(グリムKHM99)。
★6.愚かな蛙。
『江戸の蛙と京の蛙』(昔話) 江戸の蛙が京都見物に出かけ、京都の蛙が江戸見物に出かけて、途中で会う。2匹は互いの旅の目的地を見るために山に登り、手を取り合って2本足で立ち上がる。しかし蛙の目玉は背中についているので、江戸の蛙は江戸を見、京都の蛙は京都を見てしまう。2匹は「江戸も京も同じだ。わざわざ行くこともない」と言って、引き返す(宮城県本吉郡。*自分の故郷を見てそれを行く先の目的地と考える点で、→〔鏡〕1a・1b・1c・〔水鏡〕1aの、自分の姿を映してそれを他者だと思う物語と類似する)。
『蛙の人まね』(昔話) 仁佐平(にさったい)という山村に住む蛙が、伊勢参りする博労の馬に乗って、一緒について行く。そのうち、蛙は「自分も人間のように歩いてみたい」と考え、馬から下りて2本足で歩き出す。しばらく行くと、前方に仁佐平のような景色が見える。「おかしいな」と思ってさらに歩くと、そこは自分が住んでいた所だった。蛙の目は後ろについているので、立って歩いたら後戻りしてしまったのだった(岩手県二戸郡爾薩体村二佐平)。
『絵本百物語』第9「周防大蟆(すはうのおほがま)」 周防の国・岩国山の奥に、体が8尺ほどもある巨大なガマガエルがいる。昼間に虚空を仰いで口を開けば、虹のごとき気を吐く。この気に触れる鳥類虫等は、皆ガマの口に入ってしまう。夏には蛇を喰らう。
*越(えつ)の国の蝦蟇(がま)が、口から白虹を吐く→〔虹〕6bの『和漢三才図会』巻第3・天象類。
『音菊天竺徳兵衛(おとにきくてんじくとくべえ)』 船頭徳兵衛は風に吹き流され、5年間、天竺を巡った後に、日本へ帰った。彼は父吉岡宗観〔*実は朝鮮国王臣下・木曾官(もくそかん)〕から、蟇(がま)の妖術を授けられ、「この妖術を用いて日本国を奪い取ろう」と、暴れまわる〔*徳兵衛が石にむかって呪文を唱えると、石は蟇に変じて跳び歩く。また徳兵衛は、巨大蟇の背に乗って見得をきったり、蟇の体が割れてその中から現れたりする。普通の蟇を妖術で巨大化させたとも、徳兵衛自身が巨大蟇に変身したとも、両様に解釈できる〕。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)376「自分を膨らませる蟾蜍(ひきがえる)」 ヒキガエルの赤ん坊が、牛に踏み殺された。赤ん坊の兄たちが、「4足のでかい奴に潰された」と、外出から戻った母ヒキガエルに報告する。母ヒキガエルは自分の体を膨らませながら、「そいつは、こんなにも大きかったかい?」と尋ねる。子供たちは、「あいつの大きさに近づく前に破裂するよ」と言って止める。
*『それから』(夏目漱石)6では、長井代助が、日本をイソップのヒキガエルにたとえる。彼は友人平岡に言う。「日本は西洋から借金でもしなければ、到底立ち行かない国だ。それでいて、無理にも一等国の仲間入りをしようとする。だから奥行きを削って、一等国だけの間口を張っちまった。牛と競争をする蛙と同じ事で、もう君、腹が裂けるよ」。
『親不孝なむすこ』(グリム)KHM145 息子が鶏の丸焼きを食べようとした時、年老いた父親がやって来た。息子は、鶏を父に与えるのを惜しんで隠す。すると鶏は大きなひきがえるに化け、息子の顔に跳びついて、くっついたまま離れなくなった。以来、息子はひきがえるを毎日養わなくてはならない。そうしないと、ひきがえるは息子の顔の肉を食べるのだ。息子は落ち着くことができず、そこらじゅうをふらふら歩き回った。
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