AHPの誤差とは? わかりやすく解説

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AHPの誤差

読み方えいえいちぴーのごさ
【英】:estimation error of AHP

概要

AHPにおいては評価者評価項目一対ごとに比較して評価値比率によって定める. このとき, 評価者評価値についてある仮定をして, その評価項目の真の値を推定することになる. その仮定どのようなものを設定するかによって, 推定するモデル違ってくるが, 評価値真の値との差をAHPの誤差として考えてモデル作成して推定する. なお, ここでの誤差は, 真の値をどのように想定するかにもよって変わってくる.

詳説

 AHP使用する際に, その推定ウェイトにはある意味誤差を含むことになる. 何を誤差としてとらえるかによって, AHPモデル解釈仕方(推定方法)も違ってくる. 特に, AHP議論繰り返しながらその比較値を検討することも特徴であるので, どのような誤差考慮しているかを知ることは重要である.

 一般にウェイト推定には, 固有ベクトル法幾何平均法使用される. これらのウェイト推定法違いは, AHPにおいて一対比較値が人によってどのように決定されているかというモデル考え方違いでもある. この考え方には大きく分けて2つ考え方がある.

このはじめの考え方をもとにウェイト推定するのが固有ベクトル法であり, 2番目のが幾何平均法である.

 一般に推定ウェイト求めるために, 一対比較a_{ij}\, 推定ウェイトから計算され再現w_i/w_j\, 比較する. このとき, 固有ベクトル法は, A\boldsymbol{w}=\lambda_{\max}\boldsymbol{w}\, により推定するが, これは,

\min_{w_1\cdot w_n} \max_{i} \sum_{j=1}^n a_{ij}({w_j}/{w_i})\,

という最適化問題最小解を求めているのと同じである [5].

 一方, 幾何平均法は, w_i=\sqrt[n]{a_{i1}\cdots a_{in}}\, ウェイト推定するが, それは, 最小2乗問題


\min_{w_1\cdot w_n} \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n \left( \ln a_{ij}-\ln w_i/w_j\right)^2\,


最適解である.

 これらの方法は, 比較a_{ij}\, 推定値w_i/w_j\, との差を小さくするようにウェイト求めているが, その考え方違っている. 固有ベクトル法は, \min\max\, 計算していることからも分かるように, ある最大誤差全体小さくするようなウェイト推定している. つまり, どの要素誤り一定の大きさ下になるような(最良近似的な) 方法となっている.

 一方, 幾何平均法場合は, a_{ij}(w_j/w_i)\, 対数正規分布に従うと考えて, 対数をとって誤差最小2乗法ウェイト推定したのである. よって, 個々誤差がある分布に従っているという仮定をしていることになる.

 モデルとの整合性調べるために, ウェイトから計算され比較値と一対比較行列の値が, どれくらい違うのかを判定する必要がある. よく使われるサーティ整合度は, 固有ベクトル法での一対比較整合性を示す尺度であるが, 一般にこの整合度0.1から0.15ならば妥当なものだと判断される, 一方, 幾何平均法場合統計学における線形モデルであるので, 寄与率などを計算して, そのモデルの妥当性を見ることになる.

 もし, 妥当性示せない場合は, AHPモデルふさわしくないか, または一対比較想定していない値が一対比較行列入った考える. AHP意思決定道具をして使用するには, このような値を見つけて議論対象すべきである. しかし, モデル正しいものとして, ウェイト推定する場合には「その要素評価したときに, 評価者考え違いをしたか対象間違えて評価してしまっていて大きく違った」と考える. その評価値をはずれ値として取り除き, 欠損データのある場合ウェイト推定法使用する. また, 誤差の分布仮定する場合には, 誤差分布対数正規分布以外を想定することにより, 調和平均法など様々なウェイト推定法考えることもできる [8].

 これらのことから, AHP使用する際に, どのような比較値を取り扱うべきなのかを考えて, その方法選択することも重要な点となる.

 なお, AHP使用して一対比較する場合, その重要度を1,3,5,7 というような整数にして比較行列作成し, これをもとにウェイト推定をする. これに対す誤差考慮する必要もあるが, このような感覚量計量化する際の問題は, 心理学的な問題含んでいるのでその数値化がよいかの判断は非常につきにくい. このような議論は, 計量心理学統計学分野でもなされている [4],[7].しかし, その整数化よる誤差考慮する要はあるので、その一対比較した値を変更してウェイト計算してみることも重要である。その際には, 比較値を2値のみとして扱う2値AHP [2] もあるので使用して結果比較することも可能である. また, 誤差という観点からは視点が違うが, AHPグループで行う際に利用される比較値を区間として捉える区間AHPもある [3]. これは, 誤差区間で表す方法考えてよいので, 比較値に一定の許容幅を持たせて推定した場合応用できる.



参考文献

[1] T.L. Saaty, The Analytic Hierarchy Process, RWS Publications, (1996).

[2] K. Nishizawa, "A Consistency Improving Method in Binary AHP," Journal of Operations Research Society of Japan, 38 (1995), 21-33.

[3] 山田善靖, 杉山学, 八巻直一, 「合意形成モデル用いたグループAHP」, Journal of Operations Research Society of Japan, 40 (1997), 236-244.

[4] 圓川隆夫, 『多変量データ解析』, 朝倉書店, 2000.

[5] 木下栄蔵編, 『AHP理論実際』, 日科技連, 2000.

[6] 刀根薫, 眞鍋龍太郎, 『AHP事例集』, 日科技連, 1990.

[7] 松原望, 『計量社会科学』, 東京大学出版, 1997.

[8] 加藤豊, 「意思決定における評価方法」, 『日本オペレーションズ・リサーチ学会誌』, 48 (2003), 253-258.




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